第二十九回<特別編>「抗う人」でありたい理由――石川雅規×坂口智隆 対談 前編/43歳左腕の2023年【月イチ連載】
年齢やキャリア、世代交代の波に抗い続ける
――坂口さんの本によると、石川さんの登板時には「なんとか1勝しよう」という思いが強く、「その人間性を尊敬するあまり、“石川さんのために”と思いすぎた」と書かれています。一方の石川さんの本(『基本は真っ直ぐ――石川雅規42歳の肖像』=長谷川晶一著)では、打線の援護がないのは、「打線のせいじゃなくて、僕の中の何かが足りないから」と書かれています。 坂口 本にも書いたように、石川さんが投げるときには「絶対に勝つぞ」という思いは強かったですね。でも、石川さんの本では「自分に原因がある」と書かれていて、それを読んだときには「おぉ、ヤバっ」と感じました。僕らのせいで、たぶん5勝以上は白星を損していますからね。いや、もっとかもしれないな……。 石川 自分が投げるときにみんなを緊張させるなんて、それって、ただの老害じゃん(苦笑)。 坂口 もちろん、他の投手のときにも「オレたちが打って、ラクにさせてあげるんだ」という思いはあるけど、石川さんのときには、その思いがさらに強くなりますね。で、ちょっと力んじゃう(苦笑)。「もっと援護できればよかったな」って、今でも思いますね。 石川 みんなにプレッシャーをかけたり、力ませたりするつもりはもちろんないけど、僕の場合は「200勝したい」という気持ちと、「先発マウンドにこだわりたい」という気持ちが原動力となって、身体を動かしている部分がありますね。やっぱり、最終的に身体を動かすのは気持ちだと思います。グッチも、意外と「気合いと根性」が嫌いじゃないでしょ(笑)。 坂口 むしろ、僕もそっちのタイプですから(笑)。 石川 だから、年齢が近い選手だったり、長年一緒にプレーしてきた選手には、より一層の「同志感」があるんです。ふざけて、「おじさんズ」って言っていたけど、グッチが引退したときは、やっぱり寂しかったな。「おじさんズ」のメンバーが欠けてしまったから。 坂口 石川さんとはファームで一緒に過ごすことも多かったけど、どんなときでも決して手を抜かない姿勢は若手たちの参考になっていたはずだし、僕自身も刺激をもらいました。現役晩年、僕はずっと「石川さんのように抗う人が近くにいてくれて、本当によかった」って思っていました。 石川 「抗う人」って? 坂口 年齢とか、チーム内の立ち位置とか、いろいろな意味はあるけど、いちばんは「世代交代に抗う」というイメージです。プロ野球界全体に、「世代交代」とか、「若手を優先的に起用しよう」という風潮があるけど、そんな考え方には抗いたいとずっと思っていました。 石川 それは、めちゃめちゃそう思う。結局、この世界は年齢とかキャリアに関係なく、上手な人がグラウンドに立てる世界だから。 坂口 いくつになっても、きちんと成績を残せているのならば、ずっとエースでも、ずっとレギュラーでもいいのがこの世界。育てることを優先して、若手を使うような風潮には抗いたいとずっと思っていましたね。 (後編に続く) 写真=BBM
週刊ベースボール