浅草で95年、プロマイド専門店「マルベル堂」が今もこだわり続けていること
THE PAGE
1922(大正10)年創業、浅草・新仲見世通りにあるマルベル堂。中高年以上の世代には知らない人のほうが少ないのではないかというぐらい有名な、プロマイド店だ。テレビ普及以前から昭和のプロマイド全盛期にかけては、同店の売上ランキングがスターの人気のバロメーターだった。これまで撮影したスターは2500人以上、保有するプロマイドの版数は8万5000版を超える。 最大の特長は、プロマイドを見れば「あっ!」と思い浮かぶマルベル堂ならではの写真のテイスト。照明、ポーズ、構図、小道具などトータルでコーディネートされた独自の味わい深いスタイルを貫く。その秘密はどこにあるのか。THE PAGE女子大生リポーター吉井なえと共に、店長で6代目カメラマンの武田仁氏を直撃した。
懐かしいスターやアイドルのプロマイドが店内に
所狭しとプロマイドが並ぶ店頭。手に取ると見つめられているような気分になるプロマイドは、すべて歴代カメラマンによる撮り下ろしだ。人気歌手のキャンディーズやピンクレディー、たのきんトリオはもとより、俳優の柳沢慎吾さんやウルトラマンタロウの篠田三郎さんなど、あんな人もこんな人も、70~80年代にテレビに出演していた人気者は全てここに揃っている言っていいほどのラインナップだ。90年後半以降はタレント所属事務所の肖像権管理などが厳しくなったため、販売用のラインナップはそれほど増えていない。近年、販売用に撮影したプロマイドには、ゆるキャラやお笑いタレントのスギちゃんやダンディ坂野などがある。 「スギちゃんが今、一番のお気に入りです。売れると思って撮影したら、全然売れなくてね。誰も買わない」と取材開始早々、軽妙な自虐的トークで笑わせてくれた武田店長。
かつては映画館もあり、芸能の発信地だった浅草
現在の客層は40~50代の方が中心で、一番人気はジュリーこと沢田研二だという。また意外にも20代の女性が、「かわいい」「オシャレ」と言って80年代のアイドルのプロマイドを購入しに来ることも。 全盛期のマルベル堂の様子を尋ねると、「昔はこの浅草に映画館が何軒もあって、上映が夜8時や9時に終わると、お客さんたちがそのあとマルベル堂に寄ってくれたんですよ。だから夜11時ごろまでは店を開けていたんですね」と目を細め往時を偲ぶ武田店長。 続いて案内された地下フロアには、マルベル堂が撮影した全スターのプロマイドが箱に収められ、各スターの一覧も見ることができるという。また、今ではあまり見なくなったラミネートカードをはじめ、トランプや写真集、80年代~90年代のアイドルグッズなどの仕入れ商品も置いている。 「ほら、これ立花理佐ちゃんのラミネート。今でも仕入れ当時の販売価格で売っています。オークションではプレミアつくとかあるんだろうけど、うちはファンの人たちのために商売しているから」 「かつて浅草は芸能の発信地だったんです」。マルベル堂の圧巻のプロマイド在庫数が、その言葉を裏付ける。一方、寂しそうに次のようにも語った。 「いまは寄席はまだあるけれど、映画館はすべてなくなって、だいぶ昔の文化が薄れてはきています」