クロアチアを地獄へ…。イタリア代表を救った人物は? ラストプレーの歓喜はどう生まれたのか【ユーロ2024分析コラム】
ユーロ2024(EURO2024)グループB第3節、クロアチア代表対イタリア代表が現地時間24日に行われ、1-1の引き分けに終わった。引き分け以上でグループステージ突破が決まるイタリア代表は相手に先制弾を献上して苦しい時間を過ごしたが、試合終了間際になんとか同点弾を奪取。両チームの明暗を分けた劇的な展開の背景には、若きセンターバックの勇気あるプレーがあった。(文:竹内快) 【動画】クロアチア代表vsイタリア代表 ハイライト
●イタリアを救った『小さな腕』 3バックの左右のセンターバックは、イタリア語で『ブラッチェット(braccetto)』と呼ばれる。直訳すると「小さな腕」という意味だ。3バック中央の選手を体幹に見立て、左右のそれぞれのCBを「小さな腕」になぞらえているためだ。左右2人のCBは、ワイドに開いてSBのように振る舞うこともあれば、中盤のサポートのために高い位置を取ることもある。役割が多岐にわたり、中央CBの腕のように働くことから「小さな腕」と表現されている。 イタリア代表を率いるルチアーノ・スパレッティ監督は、背水の陣で挑んでくるクロアチア代表に対して3バックで応戦した。ボール保持時は[3-5-2]の布陣である。GKジャンルイジ・ドンナルンマの前には、左からリッカルド・カラフィオーリ、アレッサンドロ・バストーニ、マッテオ・ダルミアンの3枚が並んだ。 その中で左CBを務めるカラフィオーリは、この試合で文字通りアズーリの「小さな手」として大きな活躍を残した。クロアチア代表が主将ルカ・モドリッチのゴールを守り、歓喜の瞬間を待ち侘びていた90+8分。彼らを絶望に突き落としたマッティア・ザッカーニのゴールは、カラフィオーリが止まっていたチームの攻撃を強引に動かして生まれたものだった。「小さな腕」として至る所で味方選手をサポートし、ピッチを走り回った守備職人が残した「大きな輝き」とは何だろうか。 ●「チームを動かす」若きCB 中盤の底でゲームメイクするMFジョルジーニョがバストーニの脇まで降りてくると、カラフィオーリが立ち位置を上げて攻撃参加する。これはこの試合で多く見られた現象だ。同選手は中盤のパスワークに絡み、機を見計らってペナルティエリア付近まで駆け上がった。 8分のシーンに注目したい。MFニコロ・バレッラらとのパス交換でよりミドルサード中央に移動したカラフィオーリは、そのまま右サイドに流れてディ・ロレンツォの前方へ。ジャコモ・ラスパドーリの個人技を活かして駆け上がったボローニャDFは、ペナルティエリア内にクロスを放った。 上記のシーンではボックス付近にいる選手が少なかったためにクロアチア代表に対応されてしまったが、カラフィオーリの脅威は対戦相手にとって時間が経つごとに大きなものとなっていく。20分には左WBフェデリコ・ディマルコが空けたスペースに入り、精度の高いクロスをボックス内のFWマテオ・レテギへ。これも得点には結び付かなかったが、大きなチャンスクリエイトとなった。 筆者が90分間、ボローニャで飛躍を遂げたディフェンダーのプレーを追っていて感じたのは、カラフィオーリにとって「縦方向にチーム(ボール)を動かす」ということが常に最優先事項にあるということ。これはクロアチア代表のハイプレスを受けても変わらなかった。 カラフィオーリが卓越した足元の技術と抜群のスピードを持っているからこそ、可能になるプレースタイルだ。中盤に攻め上がれば必然的に相手からのプレッシャーも高まるが、彼は常にドリブルやパスなど、縦への選択肢を諦めなかった。事実、データサイト『Sofa Score』によれば、同選手のパス成功率は93%(57/61)、ロングパス成功率は75%(3/4)を記録している。 後半終盤、イタリア代表は1点を守り切ろうと5バックを敷いた相手に苦戦を強いられた。アズーリの面々の動きが鈍くなっていき、攻撃の質は徐々に低下していく。絶望的な状況の中で、カラフィオーリの攻撃参加がゴールをこじ開けるきっかけとなる。 ●カラフィオーリが見抜いた攻略方法 90+7分。クロアチア代表の選手が今かいまかと試合終了の合図を待つ中で、カラフィオーリは左から右へとドリブル。右サイドでMFニコロ・ファジョーリにボールを預けた。 ここでボローニャDFが選んだプレーは、クロアチア代表にとって最も嫌な動きであったと言えるだろう。ヴァトレニのディフェンスは、前線に多数の選手を送り込んだイタリア代表に合わせて[5-5-0]の並行な2つのラインを形成しており、その2ライン間には大きなスペースがある状況。カラフィオーリはこのスペースに走り込んだ。 同選手はファジョーリからパスを受けると、そのままするするとドリブルでペナルティエリア前までボールを運ぶことに成功。イタリア代表のウィングバックが前線に貼りついていたこともあって、クロアチア代表の最終ラインはマンツーマンディフェンスとなっており、ぽっかり空いたスペースから侵入してきたイタリア人に誰も対応することができなかった。ようやくDFヨシプ・シュタロや後ろから追いついた中盤の選手たちがカラフィオーリを囲んだ頃には、ボールは左サイドのザッカーニへと渡っていた。 何よりも、相手選手たちに囲まれた“あの瞬間”にカラフィオーリが素早くフリーになっていたザッカーニを見つけたことが恐ろしい。ザッカーニの力を抜いた正確なシュートは、ゴールに吸い込まれるような美しい軌道だった。カラフィオーリの勇敢な決断と、最終盤になっても落ち着いて相手の弱点を見抜いた冷静な状況判断が、停滞していたイタリア代表の攻撃を動かしたのだと言えるだろう。 成長著しい若きCBがアズーリのグループステージ突破の原動力となった、そう言っても過言ではない。 (文:竹内快)
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