PEAVISが語るラッパーとしての矜持 壮絶な過去を歌い、カラフルな多様性を掲げた理由
プロデューサーと共にビートからこだわり抜いて制作
―色々なジャンルを取り入れていますけど、そうやってリリックはあくまでもヒップホップらしいですよね。他ジャンルに寄せたリリックじゃないというか。一方で「もっとヒップホップには伝えられることがある」というような、視点の豊かさも今回のアルバムにはありますよね。 PEAVIS:自分もメインストリームでよく歌われている「金・女・高級車」みたいなものが好きで聴いたりするので、それがダメとは思わないんですけどね。ヒップホップにはそういう側面もあると思うんですけど、別に俺が言うことじゃない。めちゃくちゃ金持ちでフレックスするタイプでもないですし。そういう側面ばかりだと若い子とかも、ヒップホップのいい面が伝わらないのかなと思います。 俺はケンドリック・ラマーを初めて聴いた時に衝撃を受けたんですよ。マッチョイズムの中で育ったけど、優等生でコンシャスなことを歌っている。ヒップホップの表面的な部分ばかりじゃなく、そういう視点を伝えるのは大事かなと思っています。 ―今回のアルバムは視点も豊かですが、サウンド的にもカラフルですよね。 PEAVIS:今回の作品では、自分が普段聴いている好きな音楽を反映させて作りました。「俺はブーンバップしかやらない」とか「俺はトラップ」とか「俺はドリル」とか、そうやって一つのスタイルでやっていてすごい人もたくさんいると思うんですけど、自分の場合はあんまりそういうこだわりはないんですよね。「このジャンルいいね」と思ったら取り入れてみる。。新しいもの好きみたいなところもあるんじゃないかと思います。この前もYvngboi PのプロデューサーのLIL Gとスタジオで一緒にいる時に「ニュージャズ(newjazz:2023年頃から盛り上がり始めたヒップホップのサブジャンルで、Nu Jazzとは別物)めっちゃヤバいっすよ」と勧められて何曲か作りました。 ―色々なことをやっていますが、逆に「ここまでやったらアウト」っていう線引きは何かありますか? PEAVIS:単純に「流行っているから」じゃなくて、自分が本当に好きなことを取り入れるようにしています。あと、無理した感じにはしたくない。新しいことを取り入れるにしても、例えば俺が「Grrr!」みたいなドリルをやるのはカルチャー的にもなんか違うじゃないですか。ルーツを考えた時にどう映るかには気を遣っています。でも、大衆化して色々な人がやり始めたらもういいかなとも思ったり。例えばトラップとかも最初はストリートの音楽でしたけど、もう今は他ジャンルのアーティストも取り入れたりしてるじゃないですか。 ―確かに。今回の作品ではプロデューサーの方々とはどのように制作したんですか? 海外在住の方もいらっしゃいますよね。 PEAVIS:「こういうビートを作ってほしい」って話しながら明確に決めていくことが多かったですね。あと、今回は半分くらいビートから一緒に作りました。ハイパーポップの「シアワセ」はXanseiと、ミッドウェスト(midwxst)とかグレイヴ(glaive)とかを一緒に聴いて「めっちゃいいね」ってなって作った曲です。でもイケイケのハイパーポップではなく、いい具合にエモい感じを目指して。今回はエモさでまとまっていると思うんですよね。Xanseiは多分今はLAに住んでいるんですけど、日本に来たタイミングで会って。Xanseiも地元が福岡で、喋り方も博多弁で親近感が出たというか、落ち着く感じでした。家に来てくれて、5時間くらいで3~4曲作ってくれてマジですごかったですね。 ―starRoさんも参加していますね。 PEAVIS:最初ループだけのデモを貰った状態で俺がヴァースとサビを書いて、その後starRoさんの家に行ってレコーディングしました。そこからstarRoさんがアレンジしていって出来上がったんですけど、それがすごすぎて。ここまでなるのかと思いました。 starRoさんもXanseiもすごい活躍されている音楽家じゃないですか。それぞれスタイルがあって、人としてもいい人で。いい影響はめちゃくちゃもらえましたね。 ―今回はビートやフロウの展開を作り込んでいる曲も多いですよね。 PEAVIS:YonYonがそういう曲のディレクションをしてくれるんです。とりあえずループのビートをもらって、それにヴァースを書いて、展開が欲しかったらいじるみたいな感じで作り込んでいます。ループで良かったらそのまま出すこともありますけどね。 でも、実はフロウは全然練らないんですよね、フリースタイルで録るとかではないんですけど、歌詞を書くのも多分結構早い方だと思います。大事な曲とかはそこから時間置いて、またちょっとリリックをいじったりとかはしますけど。基本的にはフィーリングでパッと作る感じです。 海外の人みたいにフリースタイルでもやれると思うんですけどね。でも、JNKMNさんと話した時に「記憶力がなくてアイデアがどんどん流れていくから、普通に書いた方が良いよね」って結論になりました。