PEAVISが語るラッパーとしての矜持 壮絶な過去を歌い、カラフルな多様性を掲げた理由
色んな種類のエモがある
―音楽しかないと考えるようになったのは、いつ頃からでしたか? PEAVIS:子どもの頃は実家に住みながら週末にはクラブに行ってラップするみたいな感じだったんですけど、歳を取ってバイトをし始めた時に自分の社会不適合さを感じたんですよね。例えば飲食店とかコンビニとかで働いていても、普通の仕事ができないから。「なんか俺、もうここにいるべきじゃないな。自分にも相手にも良くないな」と思ってしまって、そこから「俺って社会に馴染めないんだな」と感じ始めました。 そんな中、10代の時にダースレイダーさんがフックアップしてくれてアルバムを出させてもらったり、MCバトルの「UMB」の福岡予選で優勝したりとかがあって、若い頃から音楽だけはちょっと評価されていたんです。人生で唯一褒められるものが音楽だった。色々やれたら良かったんでしょうけど、音楽しかできなかったんですよね。 ―なるほど。そんな不安と決意表明が混ざったような「Life」と、アルバムの追加トラックの「Do It Again」はリリック面で繋がっているような印象を受けました。 PEAVIS:そうですね。「Life」は「音楽をやるのが苦しいけど頑張る」みたいな感じで、すごい悩んでいる曲。でも「Do It again」は「病んでいるところから立ち上がろう」みたいなイメージです。 「Life」を作った時期は本当に落ちまくっていた、もうどん底みたいな時だったんです。希望とかなく、もう辞めたいけど周りの応援してくれる人が「頑張れ」って言ってくれるからギリギリ紙一重で保っていたみたいな感じで。「Do It Again」はそこから時期がちょっと空いてから作った曲で、それが二曲の違いに現れているんだと思います。ビートの雰囲気で前向きになったのかもしれないですね。 ―追加トラックはいつ頃から作り始めましたか? PEAVIS:EPの時点でビートは大体揃っていて、EPが出た頃にはもう作り始めていましたね。デラックスで出すのは最初から決めていたんです。アルバムをバーンって10何曲出すと、B面っぽい曲ってあまり聴かれなかったりするじゃないですか。それがもったいないとたまに思っていたんです。それでシングルを沢山出して、EPを出して、またどんどんシングルが増えて行って、最後アルバムになる。それを長い期間でやれたらなと思ったんですよね。『Blooms』ってタイトルも、最初に1曲目が出て一輪の花が咲いて、そこから花がどんどん増えていくみたいなイメージがありました。 ―先ほど「Do It Again」がビートの雰囲気で前向きになったという話が出ましたが、制作のプロセスとしてはビートを聴いてからテーマを考えるような流れなのでしょうか? PEAVIS:基本的にはビート先行が多いですね。無意識に「こういうことを言いたいからこういうビートが欲しい」みたいなこともあると思うんですけど。 ―「City Lights」は綺麗なビートでハードなことを歌っていますよね。あれもビート先行でしたか? PEAVIS:あの曲は文字で見ると「友達がひったくりした」だの生々しい歌詞なんですけど、そのことは自分にとってエモーショナルな記憶でもあるんですよね。「過去の自分の悪行を書くぞ」と思って書いたというよりは、ビートを聴いていたらその時の回想が出てきたというか。色んな種類のエモがあるんです。お金がなかった頃にバイトも続かない現実を味わって、ドラッグディールとかのストリートのそういう側面にどんどん踏み込んでいって……みたいな。 でも海外のラップでもこういう曲あると思うんですよね。オートチューンをバリバリに使っていて「綺麗なことを歌っているのかな」と思いきや、実はハードなことを歌っているみたいなのよくあるじゃないですか。そういう意味では、聞き触りいいけどストリートライフを歌った「City Lights」は逆に王道なヒップホップなのかなと思います。 ―なるほど。あの曲で歌っている時期と今では、どういう違いがあると思いますか? PEAVIS:あのリリックに出てくる20代の頃は、自分がこういう人間だとわかっていなかったと思います。模索していて、必死にもがいている時期でした。そういう意味では生きるのが苦しかったですね。でも30代になってみると、ちょっと落ち着いて自分のことを見られるようになりました。自分がどういう人間で、どういうものが好きなのかとか。 ―今だから書けるリリックみたいなものもありそうですね。 PEAVIS:そうですね。「Family」とかはまさにそうです。あのリリックに出てくることそのままで、自分の父親がどんな人なのかを母親が今まで全く教えてくれなかったんですよ。それを聞いたらブチ切れられるみたいな感じだったのに、30歳の誕生日に、母と彼女とご飯を食べている時に、いきなり「あんたの実の父親は、神戸のこういう人で、もう亡くなってしまっていて......」と詳細を全部教えてくれました(笑)。今までずっと頑なに教えてくれなかったのに、サラっと聞かされて。ビックリしましたね。 ―30歳の誕生日ということは、3年前? PEAVIS:そうですね。その直後にヴァースだけ書いたんですけど、作品に入れるタイミングは見失っていました。 でも、去年くらいに育ての父がワクチンを打った帰りにガソリンスタンドに寄った時にぶっ倒れて、そのまま入院してしまったことがあったんです。心臓の何パーセントが機能していないみたいな話を聞いて、「生きているうちにあの曲を出したい。形にしておきたい」と思うようになったんですよね。30歳くらいからそうやって今まで知らなかった家族のことを知ったりして、そういう影響もあって今回の作品にルーツを振り返るような曲が増えてきたんだと思います。 自分がヒップホップいいなと思ったのも、環境に負けずに頑張ろうみたいなところに惹かれた部分があるんですよね。K DUB SHINEさんのお母さんへの歌とか、ANARCHYさんとか。片親とかも別に珍しい話じゃないと思うので、同じ境遇の人に伝わればいいなと思います。