石神井公園駅前の再開発で、住民の取消請求に“棄却”判決…住民の「行政との合意」はどこまで守られるのか?
「執行停止」の認容から一転して「請求棄却判決」
本件では、東京地裁が3月に異例の「処分の執行停止」の決定を行い、話題になった。 執行停止は、処分の取消訴訟が係属した場合に、原告の申立てにより、所定の要件をみたした場合に処分の続行をストップさせる制度である(行政事件訴訟法25条2項)。 東京地裁は処分の続行により原告に「重大な損害が発生するおそれ」があると認め、執行停止の決定を下した。しかし、その後、再開発組合が被告(東京都)側に訴訟参加し、同時に異議を申し立てる「即時抗告」を行った。 その結果、東京高裁が5月9日に一転して執行停止の決定を取り消している。なお、原告はこの決定に対し最高裁に特別抗告を行い、現在係属中である(この一連の経緯と問題点については5月21日公開の記事【関連記事】を参照されたい)。 尾谷弁護士は、東京高裁による執行停止の取消が、本件訴訟の判決に影響を及ぼしている可能性があると述べた。 尾谷弁護士:「東京地裁は、執行停止を認めた時には、地区計画は狭い範囲のものなのできちんと住民との合意がなされるよう努力がなされるようにしなければならないと指摘していた。 また、その合意形成の努力が図られたのか疑問を持っており、都市計画との整合性も疑問視していることがうかがわれた。 それなのに今回の判決が出た要因は、裁判所を構成する3名の裁判官のうち裁判長以外の2名が異動になって入れ替わったことに加え、東京高裁が執行停止を取り消す判断を行った影響が考えられる」 原告と弁護団は、控訴するかどうかは未定であるという。なぜなら、控訴しても、執行停止が認められていない状況下では、土地の収用・建設工事が進行する。その結果、処分の違法の主張が認められても、判決主文で違法を宣言するにとどめ請求が棄却される「事情判決」(行政事件訴訟法31条)が下される可能性が高いためである。 原告代表の岩田紀子(みちこ)さん、中田嘉種さんは、本件判決が、街づくりに関する住民と行政の合意形成に及ぼす影響に憂慮を示した。 岩田さん:「せっかくみんなで作った地区計画、行政と住民との間の合意形成は重要ではないという判断がされてしまったので、がっかりしている。 住民同士の話し合い、行政との合意形成は大事なことではないか。それを蔑ろにして事を進めてしまう行政でいいのだろうかと、疑問を持っている」 中田さん:「石神井公園は東京都で2番目に『風致地区』に指定された。その精神を住民が今でも受け継いで、住民と行政が話し合って高さ制限の制度ができた。 話し合いでできた制度を、話し合わないで放棄してしまった。特色ある歴史的風土や自然環境を住民が守ろうと思っても、裁判所が認めてくれないようでは、今後、ユニークな地域を保全するという住民の願いが叶えられるかどうかは厳しく、残念だ」
弁護士JP編集部