「報復社会」と「閉塞感」…無差別殺傷事件が相次ぐ中国でいま起きていること
「私憤を社会にぶつけ事件を起こした」
中国でまた無差別殺傷事件が発生した。 上海の隣、江蘇省の学校内で11月16日、21歳の男が刃物で人々を次々と切りつけ8人が死亡、17人が負傷した。 【画像】35人を死亡させた暴走車の様子 警察発表によると、男は事件があった職業技術を教える学校の元学生で、試験に不合格で卒業証書をもらえなかったことと実習先の報酬に不満があり事件を起こしたという。 11月11日には、広東省で男が車を暴走させ35人が死亡した凄惨な事件が起きたばかりだ。男は離婚に際しての財産分与に不満があったという。中国で相次ぐ無差別殺傷事件に背景に何があるのか。 中国でいまよく見聞きする言葉に「報復社会」がある。日本語にすると「社会への報復」だ。ネット上では広東省と江蘇省に関連しても多く使われている。「私憤を社会にぶつけ事件を起こした」との書き込みがみられるがそれだけだろうか。
低迷続く経済と中国社会の「閉塞感」
もう一つのキーワードは「閉塞感」だ。ある中国の知人によると経済の低迷が続き若者の失業率が高いままなどから中国社会には「閉塞感」が漂っているという。その「閉塞感」が相次ぐ事件に関係しているという説明だ。 共産党政権はこれまで好調な経済を背景に庶民の求心力を維持し、庶民は良い生活が送れることで締め付けなどはある程度やり過ごしてきた面があった。 無差別殺傷事件が相次ぐ中でも国営メディアは習近平国家主席の外遊や広州での航空ショー、経済指標が好調であることなどを中心に伝えている。事件の動機や背景の掘り下げ、遺族被害者に寄り添った報道はいまのところみられない。大きく伝えることで批判の矛先が共産党政権に向かうことに危機感を抱いていて、当局は情報統制に神経を尖らせているとみられる。 習近平氏は、広東省の暴走無差別殺傷事件翌日の11月12日、「関係部門は真剣に教訓をくみ取り人民の生命安全と社会の安定を全力で保障する必要がある」との異例の指示を出した。 その指示から4日後にまた起きた無差別殺傷事件。香港メディアは当局が相次ぐ無差別殺傷事件を受け住民を管理する末端組織に「犯罪を起こしそうな人物を洗い出すよう指示した」と伝えている。しかしネット上には「力による押さえ込みは、対処療法だけで問題の根本解決にはならない」という指摘がみられる。 中国はこれから来年3月の全人代=全国人民代表大会に向けて政治的に敏感な時期を迎える。習氏は先の指示の中で社会の安定を保障することと同時に「リスク源の管理強化」も求めている。習氏にとっては共産党政権の維持が最重要だ。「問題の根本解決」とは逆に、社会統制がさらに強まる方向に進んでいるように思える。 (執筆:FNN北京支局長 垣田友彦)
垣田友彦