「着陸装置は手動で下ろせるはず」 韓国・務安空港事故、5つの疑問点
③海上ではなくなぜ硬い滑走路に胴体着陸を試みたのか 事故機は滑走路に胴体着陸した。専門家は胴体着陸が「操縦士が最悪の状況で選ぶ最後の方法」だと口をそろえた。胴体着陸は機体を最大限水平に維持したまま速度を落とし、滑走路に接地しなければならないなど、高難度の操縦技術が必要だ。 胴体着陸が避けられなかったとしても、その場所がなぜ硬い滑走路だったのかという疑問を投げかける人も多い。務安空港の周辺には海があり、滑走路周辺には芝生などもあったからだ。一部には通称「ハドソン川の奇跡」と呼ばれる2009年のUSエアウェイズ不時着水事故を思い出し、なぜ海に降下しようとしなかったのかという疑問を指摘する声もある。当時米ニューヨークのラガーディア空港を出発したUSエアウェイズ1549便は離陸2分後に鳥の群れと衝突し、両エンジンが故障。操縦士の冷静な対処でマンハッタンのハドソン川に不時着水し、搭乗者155人が全員生存した。チェ・ヨンチョル院長は「ハドソン川の奇跡の場合、バードストライクによりエンジン2個が故障した異例の状況で、経歴が40年を超えるベテラン操縦士が奇跡的に不時着水に成功したものだ。海上は一般人が思うのとは異なり、墜落すれば岩にぶつかるような衝撃を受け、非常に危険で簡単には試みることは難しい」と指摘した。航空大のイ・ユンチョル教授は「滑走路の隣の芝生にも鳥を追い払うための構造物や看板があり、むしろ危険だと判断した可能性がある」と推定した。 ④滑走路上に火災を防ぐ物質をまいたり、消防隊を待機させたりできなかったのか 胴体着陸など緊迫した状況では、空港は機体を減速させるため、滑走路の摩擦係数を高め、炎を冷やすための泡状の物質をまく。しかし、今回の事故ではそうした事前措置はなかった。匿名の現役操縦士は「胴体着陸前に管制塔と意思疎通ができていれば、消防車が航空機の着陸と同時に接近し、火災が起きれば、直ちに鎮圧をすることになる」と話した。航空大のイ・ユンチョル教授は「胴体着陸をする場合、十分に旋回して残った燃料を減らし、最も低い速度で着陸しなければならないが、今回はそうした余裕さえなかったとみられる」と指摘した。 ⑤着陸後になぜ減速できなかったのか 事故機は胴体着陸をした後、外壁に衝突するまでさほど減速できなかったという。この点についても専門家は疑問を呈している。航空機には3つのブレーキがある。 着陸装置、スピードブレーキ、エンジンの逆噴射だ。このうち確認されているのは、着陸装置が作動しなかったことだけだ。着陸装置は着陸時の衝撃を軽減すると同時にブレーキの役割も果たす。着陸するたびに滑走路に濃いスキッドマーク(タイヤ痕)が残るのはそのためだ。 また、スピードブレーキは翼の一部を立てることで空気抵抗をつくり減速するものだ。現役の操縦士教官は「車輪がきちんと下りたとすれば、車輪が滑走路に触れると同時に自動的にスピードブレーキが作動する」とし、「今回は車輪が下りなかったため、操縦士が自らスピードブレーキを作動させなければならなかったが、実際にそうした過程を踏んだのか疑問だ」と述べた。 「エンジン逆噴射」はエンジンの出力を用い、エンジン後方に排出されていた気流を前方に変えることでブレーキの役割を果たし、滑走距離を短縮するものだ。韓国航空宇宙研究院のアン・オソン博士は「逆噴射すれば、(後ろに噴射する空気がせき止められ)エンジンのカバーが開き、(吹き出した気流で)空気抵抗が大きくなり減速する。今回の事故では、エンジンの逆噴射機能が作動したのか疑問だ」と話した。 石南埈(ソク・ナムジュン)記者、キム・アサ記者、申首志(シン・スジ)記者