SNSやアプリで「精子提供」を受ける女性が急増中…性被害などのリスクと、精子バンクにはないメリット(米)
<「選択的シングルマザー」を目指すアメリカ人女性が、法的規制のないネットの精子提供システムに頼り始めている>
独身女性やLGBTQ+(性的少数者)のカップルが、インターネットで見つけたドナー(精子提供者)を介して妊娠を目指すケースが増えている。本誌調査報道担当記者のバレリー・バウマンも過去4年間、自分の意思で未婚のまま妊娠・出産する「選択的シングルマザー」を目指してフリーランス(個人間の私的契約)型の精子提供システムの世界に深く入り込み、その過程で何十人ものドナーやレシピエント(精子の提供を受ける人)、専門家に話を聞いた。 【画像】どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ アメリカ人女性の結婚・出産年齢が上がるのと同時に、「フリーランス精子」の需要自体も高まっている。妊娠のために精子バンクを利用した女性は1995年時点で約17万1000人だったが、2016年には44万人を突破。ある推定では、選択的シングルマザーになったアメリカ人女性は約270万人いる。 規制の枠外にあるフリーランス精子提供システムの実態を、以下に紹介するバウマンの新著『想定外のこと(Inconceivable)』の抜粋は垣間見せてくれる。 ◇ ◇ ◇ 彼女たちは車や公衆トイレ、モーテルの部屋で人工授精を行う。尿まみれの妊娠検査スティックに祈り、サプリメントをがぶ飲みし、時にはインターネットやフェイスブック、出会い系アプリで知り合ったばかりの男性と避妊なしのセックスをすることもある。全ては、赤ちゃんが欲しいという夢をかなえるためだ。 妊娠と出産は人生最大の決断の1つなのに、正式な医療に背を向けるのはなぜか。法外に高い費用や差別、保険適用が受けられないことなど、理由はさまざまだ。子づくりの手助けをしてくれる相手がどんな人かを直接知っておきたい女性もいる(精子バンクのドナーは原則匿名)。 私もその1人だ。多くの女性と同様、最初は精子バンクのウェブサイトでドナーのプロフィールを分析し、彼らの精子で生まれた赤ちゃんの写真を凝視した。表計算ソフトで候補者リストを作成してみたりもした。 けれど多くの女性と同様、すぐに気付いた。精子バンクは私が求めていた答えではない。私は子づくりの手助けをしてくれる相手のことを知りたかったし、生まれてくるわが子に自分の出生に関する情報や洞察を与えられる母親になりたかった。 これから私が語るのは、母になる夢を実現するために家族と出産、子づくりをめぐる文化的タブーのほとんど全てに唾を吐きかけた物語だ。 自分の意思だけで母親になれると知った直後の20年7月、私は膝の上にパソコンを置いて、さまざまな精子バンクのサイトを読みあさった。さらに数日かけて、各サイトが無料提供している情報と写真からドナーの特徴をまとめたリストを作成した。 無料の情報には、身長、体重、体格といった身体的特徴のほかに、目や髪の色も常に記載されていた。人種や民族に関する情報もあった。 もっと「実用的」な情報も載っていた。妊娠可能性を左右する精子の運動率、提供価格、ドナーが過去に提供した精子が妊娠につながったか、ドナー自身の子供の有無。ドナーの子供の性別が記載されているサイトもあったが、どれも私が一番気にしている問題ではなかった。 精子を買えるだけの預金はあったけれど、私にはこの「取引」に違和感があった。自分には耐えられない。こんなにも重要な人生の決断を、限られた情報だけで下すなんて......。 精子バンクのサイトでは通常、ドナーの学歴や趣味、基本的な病歴についての簡単な情報が無料で閲覧できる。ドナーの声の短い録音を、追加料金なしで聞けるサイトもある。内容は精子提供を希望した理由や、自分の人生で大切な人間関係についての話が多い。 ■「会えるドナー」を探して 私には、ひどく無駄な情報に感じられた。ドナー男性の本当の姿を知る役には立たない。それに、彼らは見返りに報酬を受け取っている。結局、お金が欲しいだけじゃないの? もし私の子供が成人になって接触したら、彼らは本気で向き合ってくれるのだろうか(アメリカでは成人後の子供に自分の「出自を知る権利」が認められている)。 精子バンクでドナーを探すのは、レビューのないアマゾンで買い物をするようなものだ。複数のドナーを選択し、さまざまな特徴を直接比較できるサイトは多い。アマゾンで掃除機を買うときに参考にする商品比較リストと同じように。 でも、これは日用品や電気製品の買い物よりもずっと重要な問題だ。私もドナー男性の身体的特徴を微に入り細をうがって調べまくったが、本当は髪や目の色よりもドナーの人となりのほうがずっと気になる。ジャーナリストの職業病というべきか、私は他人がやった調査を丸ごと信用することに抵抗があった。