欧米の高級紙がトランプ氏を「ヒトラーの再来」と報じる理由…ウクライナ情勢は何が起きても不思議ではない『不確実性の時代』に突入
停戦条約を強要する可能性
筋金入りの反共主義者であるヒトラーと、ソ連の最高指導者であるヨシフ・スターリンは、お互いを“不倶戴天の敵”と見なしていると考えられていた。そんな両者が電撃的に手を結んだのだから、まさに世界がひっくり返るほどの衝撃だった。 ヒトラーとスターリンは歴史的な和解を成し遂げ、世界平和を実現するために条約を結んだわけではなかった。独ソ不可侵条約には秘密協定が存在し、ポーランド分割が明記されていた。両者は独ソ戦を不可避と考えたからこそ、ポーランドを“緩衝地帯”として分け合い、開戦までの貴重な時間を稼ぐため一時的に手を握ったのだ。 当時の日本はソ連を仮想敵と考え、1936年に日独防共協定を結んでいた。ところがドイツは日本を裏切ってソ連と不可侵条約を締結した。日本政府が受けたショックは桁違いで、平沼騏一郎首相は「欧州情勢は複雑怪奇」との言葉を残して内閣は総辞職した。 「1939年に独ソが不可侵条約を結んだように、今年はトランプ氏がプーチン氏と結託し、ゼレンスキー氏に停戦条約の妥結を強要するのではないか、と懸念する欧米の専門家は少なくありません。なぜ、トランプ氏がそんな無茶をする可能性があるかと言えば、彼は第二次世界大戦を経て生まれた世界秩序、いわゆる“ヤルタ・ポツダム体制”の存続に全く興味がないからです」(同・佐瀬氏)
イーロン・マスク氏とアメリカの有権者
NATO(北大西洋条約機構)の加盟国は32カ国。ヨーロッパの加盟国はイギリス、フランス、ドイツなど29カ国だ。ヨーロッパ側は“ヤルタ・ポツダム体制”の存続を最優先に考えており、体制の秩序を乱す可能性のある“仮想敵国”はロシアと中国だと考えている。 「ところが肝心のトランプ氏は、むしろプーチン氏や習近平氏とのパイプを自慢しています。NATOにとっては信じられないアメリカ大統領であり、頭の痛い問題でしょう。アメリカはNATOの盟主であり、アメリカ抜きでは何も機能しません。トランプ氏がヨーロッパ情勢の鍵を握るというのは異常事態と言ってよく、『ウクライナ・ロシア情勢は今年、何が起きても不思議ではない』がヨーロッパ各国の共通認識です」(同・佐瀬氏) ヨーロッパ情勢の鍵を握るのはトランプ氏だけではない、と佐瀬氏は言う。実業家のイーロン・マスク氏も大きな影響を与えそうだ。 「マスク氏もトランプ氏と同じように“ヤルタ・ポツダム体制の維持”には全く興味を持っていません。さらにアメリカの有権者もヨーロッパの情勢に悪影響を与えそうです。もともとアメリカには孤立主義の伝統があるとはいえ、現在のアメリカ人有権者はあまりにも外交に無関心です。『ウクライナはどうなっても構わない。インフレ対策を何とかしてくれ』が本音です。トランプ氏とマスク氏がウクライナ情勢を巡って暴走したとしても、それにアメリカ人有権者がチェック機能を果たすどころか、かえって『戦争を終わらせてしまえ』と積極的に支持する可能性すらあります」(同・佐瀬氏)