ジェーン・スー 40歳過ぎから体調が優れない状態が日常に。「疲労」で済んでいたものが「罹患」とセットになり、「おまえが思っているほど強くはない」と体が逐一知らせてくる。私は弱体化している
ジェーン・スーさんが『婦人公論』に連載中のエッセイを配信。今回は「体調不良」について。40歳を少し過ぎてから体調が優れない状態が日常になったというスーさん。2022年には、ついに「神様から鉄拳をくらわされた」そうでーー。 * * * * * * * ◆やると決めたら、体はどこまでもついてきてくれた 年明け早々、インフルエンザA型に罹患した。40年以上ぶり2度目となる。前回はたしか、小学校高学年にあがるかあがらないかのあたりだった。外食のあと、父親が運転する車で帰宅する道中に気持ちが悪くなり、またいつもの車酔いかと思ったが、車から降りた途端、道路に吐いてしまった。 私は子どもの頃から体が強く、熱も出さなければ吐くことも滅多になかった。だから、たいそう驚いたのを覚えている。スクールゾーンを示す黄緑色の道路に、およそ自分の体内から出されたとは思えぬ量の液体を吐瀉し、私の体が大変なことになってしまったと怯えた。それがインフルエンザの仕業だとわかったのは、翌日のことだった。 以来、ほとんど風邪も引かず、大きな病気もせずに生きてこられた。中高あわせた6年間のうち、欠席したのは3日くらい。皆勤賞を狙ったわけではなく、単に健康だった。それが私だった。 健康なうえに無理の利く体で、社会に出てからは夜討ち朝駆けで働いた。無茶なスケジュールも余裕でこなした。やると決めたら、体はどこまでもついてきてくれた。そういうものだと思っていた。
◆神様の鉄拳 そうもいかなくなったのが40歳を少し過ぎてから。しかし、奇しくもそこから私の仕事人生が目まぐるしく変化した。無理はしたくないと言いながら、やりたい仕事はどんどん増える。常に眠く、体がカチコチで、体調が優れない状態が私の日常となり、プレ更年期もあるからこんなもんだろうと高を括った。体の神様がいたら、かなり腹を立てていたはずだ。 ついに、神様から鉄拳をくらわされたのが2022年のコロナ罹患。予防策は万全ながら、忙しさに追われて生活を疎かにし、まんまと感染した。ラジオのレギュラーをはじめ仕事を10日ほど休んだら、体は嘘のように楽になった。仕事仲間に体調不良で迷惑をかけたことがほとんどなかったので、いじけた情けない気持ちになった。私はもっと、強いはずなのに。 翌23年にはウイルス性上咽頭炎に罹患。これも多忙を極めていた時期のこと。そして、今年のインフルエンザA型。「疲労」で済んでいたものが、「罹患」とセットになった。おまえが思っているほど強くはないと、体が逐一知らせてくる。私は弱体化している。 今回も、仕事関係者に迷惑をかけてしまった。謝るのは時世の流れに反するが、やはりフリーランスとしては信頼に直結する事案に違いない。繰り返してはならぬ。実は、今回は過去にないほどの疲労を感じた日が何日かあった。しかし、自分を止められなかった。整備不良の車だと知りつつ、爆走を続けるしかない恐怖があった。 いまのところ、無理が祟ったタイミングで神様がなんらかのウイルスを私に投げつけるスタイルで済んでいる。だが、大病のリスクは年々増えていくに違いない。 マズいとは思っているのだ。だから、去年は仕事を減らそうとした。まんまと失敗した。今年も夏までは忙しいと確定している。みんな、どうしているのだろう。子育てやら介護やら、どう両立させているのだ。 50代は過信との闘いになるだろう。80代が聞いたら寝言だろうが、自己拡張から自己縮小へ舵を切らざるをえない予感がビンビンする。生き方を根っこから変え、それでも幸せでいられる方法を真剣に考えなければならない時がきたようだ。仕事、好きなんだけどな。
ジェーン・スー
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