アマゾン奥地の先住民族の生活は、“ある日突然インターネットを使えるようになった”ことで一変した
スターリンクと共に激変する世界
スターリンクの導入からわずか9ヵ月で、マルボ族はすでに米国の家庭を長年悩ませてきたのと同じ問題に直面している。スマホに釘付けのティーンエイジャー、ゴシップだらけのグループチャット、依存性のあるSNS、ネット上の見知らぬ人々、暴力的なゲーム、詐欺、フェイクニュース、そして未成年者のポルノ視聴などだ。 インターネットが容赦なく普及するなかで、現代社会はこうした問題に何十年も取り組んできた。しかし、世代を超えて近代化を拒んできたマルボ族のような先住民族はいま、インターネットの可能性と脅威に同時に直面しており、自らのアイデンティティや文化にネットが及ぼす影響をめぐって、議論が巻き起こっている。 そうした議論の火付け役となったスターリンクは、かつてアマゾンのような僻地では考えられなかったサービスを提供することで、世界の衛星インターネット市場を瞬く間に席巻した。 スペースXは6000基の低軌道衛星を打ち上げることで、サハラ砂漠やモンゴルの草原、太平洋の小さな島々など、地球上のほぼ全域に、一般家庭よりも高速のインターネット通信を実現したのだ。 ビジネスは急拡大している。同社を率いるイーロン・マスクは最近、スターリンクが99ヵ国で300万人以上の顧客を獲得したと発表した。アナリストの推定では、年間売上高は前年から約80%増の66億ドル(約1兆500億円)に達する見込みだ。 だが、おそらくスターリンクが最も変革をもたらしたのは、以前はインターネット網の範囲外だったアマゾンなどの地域だろう。現在、ブラジルのアマゾン地域では6万6000件の契約が締結されており、同地域の自治体の93%にスターリンクの影響が及んでいる。 ネットのおかげで、森林地帯に住む人々に、新たな職や教育の機会が開かれた。その一方で、アマゾンで活動する違法伐採業者や採掘業者に、当局の追及を逃れるための新たな通信手段を与えることとなった。 マルボの部族長の一人、40歳のエノケ・マルボ(マルボ族はみな同じ名字を持つ)は、スターリンクの可能性にすぐに気づいたと語る。森の外で何年も暮らしてきたエノケは、インターネットが部族に新たな自治権をもたらすと確信していた。インターネットがあれば、活発なコミュニケーションが可能になり、自分たちの情報を発信し、独自の物語を伝えられるはずだと彼は考えた。 2023年、エノケとあるブラジル人活動家は、スターリンク導入の支援者を募るため、50秒間の動画を撮影した。エノケは伝統的なマルボ族の頭飾りを被ってマロカに腰を下ろし、動物の歯を繋げたネックレスをつけた幼児を横に座らせて、撮影にのぞんだ。 動画が公開されてから数日後、米オクラホマ州在住の女性から連絡があった。(続く) マルボ族にインターネットをもたらした女性とは誰なのか? 後編では、インターネットによってマルボ族が直面するポルノ視聴などの問題、そしてそれが引き起こす内部対立を追う。