珍しい名字「一円(一圓)」さん。由来はお金ではなくある地名でした
珍しい名字:一円・一圓(いちえん)
滋賀県や高知県に「一円」という名字があります。旧字体を使って「一圓」とも書きます。どうして「一円」というお金の最低金額が名字になったのだろう、と思いますが、実はこの名字はお金の「一円」とは全く関係がありません。 高知県では、戦国時代の羽根城(室戸市羽根)城主に一円氏という豪族がいました。のちに土佐を統一した長宗我部元親に従っています。 この一円氏は宇多源氏の一族で、近江国の出と伝えています。名字のルーツとなったのは近江国犬上郡一円荘(現在の滋賀県犬上郡多賀町一円)という地名で、「一円」は地名由来の名字なのです。そして、この一円地区には今でも「一円」さんがたくさん住んでいます。 そもそも、「一円」とは本来「完全であること」「すべて」という意味でした。名字には基本的にいい意味の言葉や漢字が使用されるのです。 明治になって「両」「匁」などに代わって「円」が貨幣の単位となった時も、当時の一円はそれなりの大金でした。まさか、一円がお金の最低金額になるとは誰も思わなかったのではないでしょうか。
森岡浩/Hiroshi Morioka
姓氏研究家 1961年高知県生まれ。早稲田大学政経学部在学中から独学で名字の研究をはじめる。長い歴史をもち、不明なことも多い名字の世界を、歴史学や地名学、民俗学などさまざまな分野からの多角的なアプローチで追求し、文献だけにとらわれない研究を続けている。著書は「全国名字大辞典」など多数。
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