世界初、西陣織まとったパビリオン、万博に 京都の老舗企業、伝統と進化の融合に挑戦
2025年大阪・関西万博で、京都の伝統工芸品西陣織を外装にまとったパビリオンが出展する。世界初の試みで、1688年創業の細尾(京都市中京区)が制作を手がけた。内装材の市場開拓といった革新的な取り組みを続ける12代目の細尾真孝社長(46)は「伝統と進化の融合だ。縦糸と横糸が交わる生地を近くで見てほしい」と意気込む。 住宅メーカー大手の飯田グループホールディングスと大阪公立大が共同出展するパビリオンで、現在は建築中。赤を基調とした桜柄の西陣織が大きなメビウスの輪を模した建物を覆い尽くす構造だ。外装の表面積は約3500平方メートル。完成すれば上空からは一つの花のように見える。内部では、人工光合成の技術を活用した未来の住宅などを展示する。 構想を聞いた細尾社長は「西陣織を建材に使うのは前代未聞。無理難題がいくつもあった」と振り返る。3次元的な曲線が多い複雑な設計のため、絵柄のずれをなくすためにパソコン上で何度もシミュレーションし、約3年がかりで立体的な織物を制作した。
半年間の万博会期中、日差しや風雨にさらされ続ける。西陣織の風合いと耐久性を両立させる素材も一から開発し、東京ドームの屋根など「膜構造物」を手がける太陽工業(大阪市)が生地の裏表に特殊な樹脂コーティングを施した。 着物の需要低迷で、西陣織は国内で苦境が続いている。西陣織工業組合によると、出荷額はピークの1990年には2794億円に上ったが、その後減って2020年には181億円まで落ち込んでいる。 細尾社長は2008年から家業に携わり、着物や帯が中心だった西陣織の使い道をソファなどの家具や壁紙の生地に広げた。2010年ごろから海外に本格進出。「シャネル」や「ディオール」といった有名ブランドの店舗や、高級ホテルからインテリアの受注が舞い込み、今では内装材の販売が売り上げの約4割を占める。 従来の織機は幅約30センチの生地しか織れないが、独自に開発していた150センチ幅の織機がパビリオンの外装制作でも活躍した。20~30代の若い職人も多く携わったといい、細尾社長は「伝統工芸はクリエーティブ産業だということを万博に来た子どもたちの心に残したい」と期待した。