『キングオージャー』に見る「戦う兄弟」像 なぜ特撮では「兄弟揃って」が定番なのか
「戦う兄弟」の源流は士官学校/兵学校にあり?
「ス―パー戦隊」シリーズは約1年間の放送終了後、次回作に登場、共演する「VSシリーズ」の制作が恒例です。また一部の作品は、TV放映の10周年や20周年に合わせてVシネマ作品も制作されています。 【画像】「いったい何体合体するんだい?」こちらがキングオージャーの20体合体を再現し立体化された「ゴッドキングオージャー」です(11枚) このようにスーパー戦隊シリーズで続編が制作されることは珍しくなく、シリーズ第47作『王様戦隊キングオージャー』は前作『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』との共演作品のみならず、2023年が放映10周年にあたる『獣電戦隊キョウリュウジャー』とのコラボ作品も制作されています。2024年11月10日には動画配信サービス「東映特撮ファンクラブ」にて、スピンオフ作品「王様戦隊キングオージャーIN_SPACE」の配信が開始されました。 まだ正式発表はなされていませんが、2024年12月現在放映中の『爆上戦隊ブンブンジャー』と共演するVSシリーズも制作される可能性が高く、これだけ多くの派生作品が制作されるのは、キングオージャーの高い人気ゆえといえるでしょう。 その人気の理由のひとつには、主人公「ギラ・ハスティー」の兄、「ラクレス・ハスティー」の魅力によるところが挙げられると思われます。 ラクレスは巨悪を倒す目的で、敵勢力と同盟を結んだり、下僕になってしまったりする食えない人物なのですが、真の目的を明かしてからはキングオージャーたちと共闘し、物語の最終盤ではキングオージャーの一員と見まごうほどの活躍を見せています。東映特撮の公式YouTubeチャンネルでは、ラクレスを主人公にしたスピオンオフ動画作品「ラクレス王の秘密」も配信されるほど、高い人気を集めています。 兄弟で戦うというのは、いわゆる男児向け特撮作品の定番要素で、スーパー戦隊シリーズでは『恐竜戦隊ジュウレンジャー』の「ブライ」と「ゲキ」、「ウルトラ」シリーズにはおなじみ「ウルトラマンレオ」と「アストラ」の双子の兄弟が登場し、また人間や生物ではないものの『キカイダー01』に登場する「キカイダー」と「キカイダー01」なども戦う兄弟です。 こうした「戦う兄弟」像は現実世界にも見られ、近現代日本でもっとも有名なのは、司馬遼太郎氏の小説でドラマ化もされた『坂の上の雲』のダブル主人公、秋山好古陸軍大将(兄)と秋山真之海軍中将(弟)なのではないかと思います。 秋山兄弟のように「兄弟そろって軍人となり、しかも栄達した」というと、国内ではたとえば、首相として太平洋戦争を終結に導いた鈴木貫太郎海軍大将(兄)と鈴木孝雄陸軍大将(弟)、百武三郎(三男)、源吾(五男)の両海軍大将と晴吉(六男)陸軍中将といった錚々たる顔ぶれが挙げられ、このような事例は他国に比べて多い傾向があります。 秋山好古は、教師の薄給では家族を支えきれないと判断し、教職を辞して陸軍士官学校へ入学、真之は学費の不足から東京帝国大学入学を断念して海軍兵学校へ入学し、それぞれ軍人になっています。 陸軍士官学校と海軍兵学校は原則として学費が不要で、本来ならば帝国大学などで学んでいてもおかしくはないような人材が、家庭の財政事情で両校へ入学し軍人になるという事例は多かったようです。これも、戦う兄弟が日本で多く生まれた原因のひとつといえるでしょう。 日本の特撮作品やアニメ作品に戦う兄弟が数多く登場するのは、もしかすると現実世界でも秋山兄弟のような成功事例が多数、存在したからなのかもしれません。
竹内修