地震と大雨で二重被害の男性「もうどうでもいいと思ってしまう」…能登被災者に長期的な心のケア必要
[能登地震1年]<5>
「この怒りや悲しみをどこに向けていいのかわからない」。元日の地震と9月下旬の大雨の被害を受けた石川県珠洲市の男性(77)は、胸の内を明かす。地震で両隣の家が自宅に倒れかかった。大雨で自宅周辺が泥で埋まり、今も手つかずだ。10月に入居予定だった仮設住宅も水につかり、入居できたのは今月14日。「もうどうでもいいと思ってしまう」と、進まない復旧にいら立ちを募らせる。 【写真】奥能登で「波の花」ふわふわ、海水に含まれる植物プランクトンの粘液が泡状に「冬がやってきたと実感」
被災地で心のケアにあたる金沢大の菊知充教授(精神行動科学)は、不可抗力の挫折が続き、無気力になってしまう「学習性無力感」が被災者に表れていると指摘する。元日が近づき、被災の記憶がよみがえって心身に不調をきたす「アニバーサリー(記念日)反応」を招くことも心配する。
ボランティアで珠洲市や輪島市の仮設住宅や避難所を回る精神科医の林正男・穴水こころのクリニック院長によると、地震後、飲酒量の増加でトラブルを起こしたり、一人暮らしで認知症が進んでしまったりする高齢者が目立つようになった。環境の変化で部屋に籠もりがちになったことが影響しているとみられる。大雨で被害を受けた住民には自分ばかりが被害を受けることへの怒りといった負の感情を抱く人も増えているという。林院長は「無理に感情を抑えると、精神に不調をきたしてしまう場合もある。話すことで心を落ち着かせつつ、様子を見ていくしかない」と話す。
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子どもへの影響も懸念される。輪島市の女性(40)は、大雨で自宅1階に水が入り込み、小学3年生の長男が「死にたくない」とパニックになった。「地震後、トイレに1人で行くのを怖がるようになり、夜の眠りも浅いようで心配だ」と話す。
文部科学省は1月26日~7月19日、珠洲、輪島、能登3市町の小中学校にスクールカウンセラーを派遣した。面談した子どもからは「不安で眠れない」「授業に集中できない、落ち着かない」といった声が多く聞かれたという。石川県は今年度、奥能登4市町の小中高に配置するスクールカウンセラーを前年度から2倍の20人に増員した。