なぜトヨタは大卒至上主義の時代に「職業学校」を運営するのか…トヨタ元副社長が語った「一生忘れない出来事」
■失敗したときこそ、本気で見つめなければならない 「失敗したときは、……本当にはっきりと失敗したんだなと思ったときは……。それを破き去ったり、つぶしたりしてはいけない。それをじっと見る。じっと見据える。本気になって、勇気と力をこめて見る」(『旅でもらったその一言』渡辺文雄、岩波現代文庫) 中川は陶芸や絵画にたとえて失敗を見つめろと言っている。しかし、これはトヨタの現場で河合が上司から諭されたことと同じだ。うまくいかなかった仕事について、トヨタ、学園では真正面から見つめろと教える。 いわゆる教育施設とはいかに失敗しないで生きていくかを教えるところだ。しかし、どう教育しても、万全の準備をしても、人は必ず失敗する。 どれほど立派な教えを学び、テストで100点を取っても、学校で首席になっても、人は失敗する。社会に出ていって、仕事をして、「失敗したことはありません」とうそぶいたとしても、必ず失敗する。そして、大半の人は失敗の経験をなくそうとする。自分の失敗を思い出したくないし、見つめたくないからだ。だが、トヨタと学園では失敗だと自覚した時は本気になって、勇気と力をもって見つめることを教えている。こういった会社、教育施設は他にない。 ---------- 野地 秩嘉(のじ・つねよし) ノンフィクション作家 1957年東京都生まれ。早稲田大学商学部卒業後、出版社勤務を経てノンフィクション作家に。人物ルポルタージュをはじめ、食や美術、海外文化などの分野で活躍中。著書は『トヨタの危機管理 どんな時代でも「黒字化」できる底力』(プレジデント社)、『高倉健インタヴューズ』『日本一のまかないレシピ』『キャンティ物語』『サービスの達人たち』『一流たちの修業時代』『ヨーロッパ美食旅行』『京味物語』『ビートルズを呼んだ男』『トヨタ物語』(千住博解説、新潮文庫)、『名門再生 太平洋クラブ物語』(プレジデント社)、『伊藤忠 財閥系を超えた最強商人』(ダイヤモンド社)など著書多数。『TOKYOオリンピック物語』でミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。旅の雑誌『ノジュール』(JTBパブリッシング)にて「ゴッホを巡る旅」を連載中。 ----------
ノンフィクション作家 野地 秩嘉