欧州のスーパーカーと真っ向勝負!の「レクサスLFA」、トヨタ渾身の和製スーパーカー、その先進技術を探る【歴史に残るクルマと技術075】
フェラーリやランボルギーニに対抗できる日本には存在しなかったスーパーカー、そこに果敢に挑戦したのが「レクサスLFA」である。560psを発揮するV型10気筒エンジンをCFRP(炭素繊維強化プラスチック)ボディにフロントミッドシップにし、0-100km/h加速3.7秒、最高速度325km/hを記録した。 TEXT:竹村 純(Jun TAKEMURA)/動画:StartYourEnginesX /PHOTO:StartYourEnginesX、三栄・名車アーカイブ レクサスのすべて、clicccar レクサスLFAの技術を見る 日本が誇るスーパーカー、レクサスLFA レクサス LFAの開発は2000年に始まったが、その狙いは世界に通用するスーパーカーを作ること。目指したのは、欧州のフェラーリやランボルギーニのような本格的なスーパーカーに真っ向勝負できるクルマだった。 プロトで改良を重ねて、レクサスLFAは2009年の東京モーターショーで発表。LFAは、トヨタグループのヤマハ発動機やアイシンエイアイ、アイシン精機、豊田自動織機などの協力のもと、スーパーカーに必要な最先端技術がすべて投入された。 軽量強靭なCFRP 製モノコックシャシーに、ヤマハ発動機と共同開発した4.8L V型10気筒エンジンをフロントミッドシップ。そのエンジンは、市販車として当時国内最強の最高出力560ps/8700rpm、最大トルク48.9kgm/6800rpmを発揮し、その出力は6速ASG(自動MT)を経てディファレンシャルと一体化されたトランスアクスルを介して後輪を駆動するFRである。 サスペンションは、前がダブルウィッシュボーン、後がマルチリンク式で車高調整ショックアブソーバーを備え、ブレーキはカーボンセラミック製ディスクブレーキが採用された。 高性能エンジンを搭載したLFAの動力性能は、アイドルから9000rpmまで0.6秒で吹け上がり、0-100km/h加速はわずか3.7秒、最高速度は325km/hに達する。日本での車両価格3750万円で、2010年12月から生産がスタートし、2011年11月に世界限定500台がラインオフした。 以下にLFAが採用した特徴的な技術、CFRPボディ、V10エンジン、フロントミッドシップ、カーボンセラミック製ブレーキについて個々に紹介する。 CFRP主体のボディ構造で小型軽量化を実現 LFAには、車両の基本骨格の大半とボンネットやルーフのパネルにCFRPが採用された。広範な部位への適用が可能になったのは、CFRP製部材の製造方法の改良とともに、さまざまな製造工法のCFRPを適材適所で選択したためである。CFRPを主体としたLFAのボディ重量は、アルミ合金製と比べて100kg軽い1480kgが達成された。 CFRPは、レーシングカーなどにも使われる軽くて強度の高い材料である。一方で当時はまだCFRPを量産するのが技術的に難しくコストがかかるため、当時はなかなかCFRPを車体骨格に使う市販車はなかった。 レクサスLFAでは、トヨタ元町工場内に通常の生産ラインとは異なる少量生産車に特化したLFA専用ラインを設け、そこにCFRPを成形するための大きな窯も設置。わざわざ専用の作業場を用意しなければ、生産部品としてのCFRPを作ることは困難だったのだ。 国産車最高の出力と透き通った排気音のV10エンジン エンジンの最高出力は、基本的には排気量の大きさで決まるが、4.8Lの排気量であれば1気筒あたりの排気量に制限があるので必然的にV型10気筒が選択される。レクサスLFAのV型10気筒のバンク角は72度。これは、V型10気筒でクランクピンオフセットをせず等間隔で爆発できるバンクである。潤滑は、エンジン重心を下げたり、急加速時や旋回時の空気の吸い込みを防ぎ潤滑性を改善するためにドライサンプ方式が採用された。 エンジン自体も軽量化が図られ、吸排気弁、コンロッドはチタン合金、ヘッドカバーはMg合金を使い、各気筒独立スロットル、点火はダイレクトイグニッション、排気管は各バンク5本→1本の完全等長マニホールド、さらにマフラもチタン合金製で軽量化が図られた。 またLFAの特徴として、ヤマハの協力を得て楽器のように調律された、オクターブハーモニーを利用した排気音がある。オクターブハーモニーとは、エンジンの燃焼による共振を利用したF1マシンのような透き通った排気音であり、誰もが振り返るような迫力ある排気音を演出したのだ。 ミッドシップでないフロントミッドシップを採用 通常、スーパーカーはエンジンをキャビンの後ろに搭載するミッドシップ(正確には、リアミッドシップ)とするのが一般的だが、LFAは車両前部に搭載するフロントミッドシップを採用した。関係者によると、フロントとリアの重量配分と高剛性を両立させるためとされている。 この構成により、FRレイアウトがもつ操縦性能や直線安定性と、MRプラットフォームがもつ高いハンドリング性能やコーナリング時の機敏性を両立させたという。すなわち、一般的なミッドシップだと機敏に旋回姿勢に入るなど操縦性のメリットもあるが、スピンに陥りやすいなどコントロール性に難がある。しかしフロントエンジンとすることで前部を少し軽くすることで、俊敏性を高めつつ高いコントロール性を実現するというのだ。 高性能スポーツカーの前後重量配分は、一般的50:50が理想と言われている。しかしLFAでは、クルマの能力を最大限に引き出せる値として前後48:52としている。 カーボンセラミック製ブレーキ カーボンセラミックブレーキは、カーボンとセラミックによる複合素材で作られたブレーキローターで、最大のメリットは軽いこと。 通常のスチール製ブレーキローターと比較するとカーボンセラミックローターは約半分の重量なので、ばね下重量の軽減に大きく貢献する。ブレーキ周りが軽くなると、サスペンションの動きがスムーズになって路面に対する反応や追従性が良くなるなどの効果が大きく、特にスポーツカーにとってそのメリットは絶大、スーパーカーにとっては欠かせない装備なのだ。 さらに耐熱性や耐フェード性、耐久性にも優れており、ブレーキダストが非常に少なく、ホイールが汚れにくいというメリットもある。 日本車でカーボンセラミックブレーキを採用したのは、レクサスLFA、日産GT-R、ホンダNSXのみである。 レクサスLFA(プロトタイプ) 参考動画(StartYourEnginesX) https://youtu.be/IXjsQVirV4E?si=wbDskjsLBGQLheDa 「レクサスLFA」が誕生した2010年は、どんな年 2010年にはレクサスLFAの他にも、日産の「リーフ」、「ジューク」、三菱自動車の3代目「RVR」が登場した。 リーフは、EV普及の起爆剤となった本格的な乗用車EV、ジュークはコンパクトスポーツとSUVを融合させたコンパクト・クロスオーバーSUVという新しいジャンルを開拓した。3代目RVRは、RVブームで大ヒットした初代からコンパクトSUVへと生まれ変わってデビューした。 自動車以外では、2005年に小惑星イトカワに到達した宇宙探査機「はやぶさ」が60億kmの旅を終えて帰還。根岸英一氏と鈴木章氏がノーベル化学賞を受賞した。2005年に結成されたAKB48が、“ヘビーローテーション”などの大ヒットを連発してAKBブームが巻き起こった。 また、ガソリン132円/L、ビール大瓶200円、コーヒー一杯410円、ラーメン590円、カレー740円、アンパン140円の時代だった。 ・・・・・・ トヨタを中心にトヨタグループの総力を上げて開発したわずか480台の希少なスーパーカー「レクサスLFA」。欧州の本格的なスーパーカーに真っ向勝負した和製スーパーカー、日本の歴史に残るクルマであることに間違いない。
竹村 純