幻のベントレー・コンチネンタル「フライングスター」はベース車の評価ゼロ円!?
1926年、ミラノ北郊に誕生したカロッツェリア・トゥーリング。創設者フェリーチェ・ビアンキ・アンデルローニは、航空産業で培った技術を活かし、革新的で軽量な車体製作で瞬く間に名声を確立した。1948年、その遺志は息子のカルロ・フェリーチェに受け継がれ、品質を決して妥協しない姿勢は堅持された。しかし1966年、経済危機の波に飲まれ、その歴史に一旦の幕が下ろされることとなった。 【画像】「フライングスパー」ならぬ「フライングスター」! シューティングブレーク化された希少なベントレー(写真19点) 時は流れて2006年4月21日。クラシックカー・ディーラーとして知られるオランダ人実業家、ポール・VJコート率いるゼータ・ヨーロッパBVグループが、トゥーリングの独占的ブランド使用権を取得。ミラノに「カロッツェリア・トゥーリング・スーパーレッジェーラSrl」を設立し、伝説の復活を果たした。マセラティ・クアトロポルテをベースとしたベラージオ・ファストバック、コンセプトカーA8GCS・ベルリネッタ、アルファロメオ・ディスコ・ヴォランテなど、話題作を次々と世に送り出していった。 そんな現代の名工房が手掛けた2008年式ベントレー・コンチネンタル“フライングスター”が、2025年2月4日から5日にかけてパリで開催されるRMサザビーズのオークションに出品される。その名の通り、当時のベントレー・コンチネンタルGT/GTCシリーズがベースで、19台限定で“シューティングブレーク化”された極めて稀少な1台である。 そもそもシューティングブレークとは、19世紀の英国貴族が愛した狩猟用馬車を意味する。猟犬と銃器、そして獲物を優雅に運ぶための特別な馬車は、やがて自動車の時代を迎え、贅を尽くした狩猟用車両へと姿を変えていった。 ベース車両には、クーペのコンチネンタルGTではなく、オープンモデルのコンチネンタルGTCが選ばれた。同社のプレスリリースではボディ剛性の高さが理由とされている。穿った見方をすれば…、屋根の新設やリアハッチの取り付けという一連の作業効率を考慮しての選択だったのではないだろうか? とはいえ、シューティングブレーク化は決して容易な作業ではない。まったく新しいプロポーションでありながら、ベントレーとしての一貫性を保つ必要があった。フロントウィンドウを含むAピラー前方のみを流用し、後方は全て新設計。電動テールゲートは幅広いリアフェンダーの間に美しく収まり、リアサスペンション上部には補強と安全性を兼ねた新設のピラーが配される。 50年代のベントレー・ファストバックを想起させるオーバル型クロームベゼルのリアライト、低いルーフライン、際立つショルダーライン、幅広いホイールアーチ。どれもがコンチネンタル・シリーズの気品を損なうことなく、新しい個性を主張している。 実用性も特筆に値する。リアトランクにはゴルフバッグ4つを難なく収納。折り畳めば2メートル超の長尺物も搭載でき、最大1,200リットルの荷室容量を誇る。荷室カーペットにマッチする特注の鞄まで付属するという徹底ぶりだ。 さらに驚くべきは、ドアを3センチメートル延長するという拘りまで見せている点だ。この些細な変更にどれほどの工数と費用が費やされたか、想像するだけでぞっとする。だが、そんな贅を当然とする者だけが手にする車両なのだ。 車両は持ち込みで、コンチネンタルGTCでもコンチネンタルGTCスピードでも対応可能だったという。気になるシューティングブレーク化の費用は34万3,000ユーロ~(オプション別途)。なお当該車両は、最高出力552psと謳われていることからも、コンチネンタルGTCがベース車であることがわかる。 走行距離はわずか7,467kmで、写真からもほぼ新車状態が保たれていることが窺える。予想落札価格30万~40万ユーロと見込まれている。つまり…、車両本体が実質、無料!? 文:古賀貴司(自動車王国) Words: Takashi KOGA (carkingdom)
古賀貴司 (自動車王国)