湖底にたまった泥から過去7万年の気候がわかる!? 福井県にある「奇跡の湖」とは
地球温暖化など気候にまつわる問題に備えて対策を立てるには、過去の気候について詳しく知り、気象現象への理解を深める必要があります。そのための素晴らしい資料が、福井県の水月湖の底に眠っていました。一体、ここからどのようなことがわかったのでしょうか? 小中学生向けのニュース月刊誌『ジュニアエラ2024年11月号』(朝日新聞出版)からお届けします。 【グラフ】湖底の泥から判明! 過去7万年の気候がこちら ■水月湖の湖底に堆積した「年縞」は気候の記録保管庫(アーカイブ) 湖底にたまった泥が、過去7万年の気候を詳しく教えてくれる「奇跡の湖」が福井県にある。その名は水月湖。湖底にたまった泥の断面を見ると、きれいな縞模様をなしている。 この縞模様は「年縞」と呼ばれ、暗い色の部分と明るい色の部分が交互に積み重なっている。暗い色の部分は、春から秋にかけて湖にいるプランクトンの死骸などが積もり、明るい色の部分は、秋の終わりから冬にかけて中国大陸から飛んできた黄砂や湖水に含まれる鉄分などが積もってできた。この明暗の縞の1セットが、1年分の泥ということになる。 年縞が見つかったのは1991年のこと。93年には、年縞の縞模様が過去7万年にわたって一年一年、途切れることなく湖底から下に45mの深さまで堆積していることがわかった。1年分にあたる縞の1セットの厚さは平均0・7㎜と薄いが、その中には、その年の気候のようすを教えてくれる植物の花粉などが含まれている。つまり、この年縞は過去の気候の「記録保管庫(アーカイブ)」になっているのだ。 ■花粉の種類や数の違いから各年の気候がわかる 年縞に含まれる花粉から、何がどのようにわかるのだろう? 1990年代から水月湖の年縞を研究してきた立命館大学教授の中川毅さんに解説してもらった。
「1gの年縞の中には、数百~百万粒ぐらいの花粉が見つかります。それを顕微鏡で見て、何の花粉か見定めながら数えます。150種ぐらいの花粉が出てきますが、その中から気候を反映していそうな花粉に注目して、どの花粉がどれくらいの割合を占めるかを計算します。 7万年分の年縞から見つかる3種の花粉の割合をみると、1万年くらい前までは温暖な土地に生えるスギが多く見つかっています。2万年前ごろになるとスギはなく、冷涼な土地に生えるコメツガやシラカバの仲間が見つかります。 このことから1万年前ごろと2万年前ごろでは、気候が大きく異なることがわかります。花粉の種類を増やして全体に占める割合を見ると、年縞が堆積した時代にどんな植物がどのくらい生えていたかを知ることができ、そこから気温・降水量など当時の気候を推測、再現できるのです」 中川さんは、現在の日本各地の地表の土に含まれる花粉も同様の方法で調べ、地域ごとに花粉の種類の割合を表してみた。その結果、2万年前の水月湖にいちばん似ているのは現在の知床半島(北海道)、7千年前のいちばん温暖だった時期にいちばん似ているのは、現在の宮崎市だったという。つまり、2万年前の水月湖は現在の知床と同じくらい冷涼であり、7千年前は現在の宮崎市と同じくらい温暖だったというわけだ。 ■農耕には気候の安定が不可欠 もし以前のように暴れ始めたら… 水月湖のほかにも、世界には過去の気候の手がかりとなる年縞などがいくつか残されている。それらを幅広く研究してきた中川さんは、最近「暴れる気候」という用語をよく使う。どういう意味なのだろう? 中川さんによると、1万2千年くらい前から現在まで、地球の気候は安定していて、毎年ほぼ同じような気候が繰り返されてきているという。来年の夏(冬)も今年と同じような暑さ(寒さ)や雨(雪)の量になるだろうなと予想すると、大きく外れることはほとんどなく、ほぼ予想どおりの気候になってきたというのだ。