『修道士は沈黙する』アンドー監督、世界経済リードする一握りの人間を疑う
人生に必要な映画。個人において、または自分が生きる社会において、そういうタイムリーな映画との出合いがたまにある。久々にあったそれが、この『修道士は沈黙する』だった。 バルト海に面した高級リゾート地のホテルで開かれる、財務大臣によるG8の会議。ここでは世界市場に多大な影響を与えるであろう、重大な決定がなされようとしていた。それは貧富の差を拡大させ、発展途上国に大打撃を与えることが予想された。会議を仕切るのは、天才的なエコノミストとして知られる国際通貨基金(IMF)の専務理事ダニエル・ロシェ(ダニエル・オートゥイユ)。だが、会期中、彼はビニール袋をかぶった姿で死体となって発見される。自殺か? 他殺か? ロシェは意味深長にも、G8に修道士サレス(トニ・セルヴィッロ)を招聘していた。 原題は“Le confessioni”。「告解」という意味だ。日本ではこれを、『修道士は沈黙する』の題名で公開する。日本が、世界がいま置かれる状況にも似たこのスタイリッシュな社会派ミステリーについて、監督のロベルト・アンドー氏にその意図をうかがった。
“沈黙”は権力者に恐れを抱かせる 非常に面白く、興味深い行為
「“告解”と“沈黙”は極めて近いものです。告解で告げた秘密は、打ち明けた人間との間で守られ、第三者がそれを知ることはありませんので。そういう意味でも、日本ではこのタイトルで公開されると聞き、とても嬉しく思いました」 アンドー監督は、「“沈黙”は、この映画のもうひとつの主役」だという。「“沈黙”は権力者に恐れを抱かせ、修道士サレスはそれを武器にします。私は、イタリアのシチリア出身ですが、シチリアでは沈黙はマフィアへの服従を意味しました。一方で、この修道士がしたように抵抗の意味もあります。“沈黙”とは非常に面白く、興味深い行為なのです」
「世界の経済はいま一握りの人間にリードされている」
8カ国の首脳陣が経済、政治を討議する国際会議G8。本作の物語は、G8に参加した財務大臣らによって進められる。会議をリードするのは、国際通貨基金(IMF)の専務理事ダニエル・ロシェだ。 「世界は経済によって動かされています。この30年で、経済は政治より重要なものとなり、政治は経済に左右されるようになりました。ついには経済界の権力者が政治家になっている。イタリアのシルヴィオ・ベルルスコーニ然り、アメリカのドナルド・トランプ然り。経済は、この時代の“神”といえるかもしれません」 そして、「世界の経済はいま一握りの人間にリードされている」とアンドー監督はいう。本作を見た同じタイミングでもうひとつ経済にかかわる映像を見た。インターネットで見られる世界銀行総裁ジム・ヨン・キム氏の「TEDトークス」だ。そこで彼は、経済格差をなくすために、世界銀行をどう機能させようとしていのるかについてプレゼンしていた。このために自分は総裁の座に就いたのだと。一方、本作で描かれる国際通貨基金(IMF)は、経済によって世界を牛耳る、またはある一部の人の利益のために経済を回すことを画策している。