「役者としての財産」映画『海の沈黙』女優・菅野恵、独占インタビュー。銀幕デビューと倉本聰との出会いについて
「シーンが立体的になっていくと実感」 撮影現場について
ーーー本作であざみが初登場するシーンでは、清水美砂さん演じる牡丹と対峙されています。撮影現場はいかがでしたか? 「清水さんがとても天真爛漫な方で、現場も明るい雰囲気でした。跳ねるような牡丹を演じられており、素敵だなと思いましたし、そのお芝居を受けるのが楽しかったです。現場では色々お話しさせていただいたんですけど、清水さんにお子さんがいらして、『子育て凄く楽しいよ!』とキラキラしながらお話されていたんです。今までは女優と子育ての両立が大変という話を聞いたことはあったのですが、その両立が楽しいということを話されたのは清水さんが初めてだったので、とても印象に残っています」 ーーー本木さん演じる竜次とのシーンが多くありましたが、中盤であざみと竜次が抱き合うシーンがとても印象的でした。お互いの傷を労りあっているように感じ、本当に切なくなりました。 「演じていても凄く切なかったです。実際に肌と肌が触れ合い、近くで呼吸を感じると本当に切なく、竜次を守ってあげたいと思いましたし、その瞬間あざみが誰にも見せてこなかった痛みを感じて、涙も勝手に流れてきて、こうやってシーンが立体的になっていくんだなと実感した場面でした」 ーーー本木さんとは本作についてディスカッションはされましたか? 「あまりしてないんです。本木さんは役作りのために減量をされていて、身体的にも精神的にもご自身を追い込んでいる印象でした。撮影以外でも、ずっと竜次としていらっしゃいましたし、現場も緊張感が漂っていました」 ーーー若松監督からはあざみ役について演出はありましたか? 「特に細かな指示はなく自由にやらせていただいたので、逆に『これで大丈夫ですか?』と不安になる気持ちもあったのですが、それを抑えながら『頑張らなきゃ』と葛藤しながらやっていましたね」
「人間の弱点を掬い上げて昇華してくれる」 巨匠・倉本聰について
ーーー先ほど不安な気持ちと葛藤されていたと仰られていましたが、それを微塵も感じさせない程、堂々と演じられており素晴らしかったです。これまで倉本聰作品には多く携わられていますが、倉本聰さんはどんな方ですか? 「こんなこと言ったら怒られますけど、凄く優しいし可愛い方です(笑)。倉本先生ほど作品に対する熱量がある方に出会ったことがなかったので、その分怒るとめちゃくちゃ怖いんですけど、それ以外ではとても優しいですし、お話しも面白くお喋りな方です。ご自身も怖いと言われていることを気にされていて、『怖くないんだよ』と言ってるぐらいです(笑)」 ーーー演出面ではいかがですか? 「それは本当に厳しいですね。舞台に出るだけで、『ダメ!出方が違う!』とか、『セリフの間が違う!』と何度もダメ出しをされます。あとはその役がどういう街で育って、どういう暮らしをしてきたかを自分の中で実感を持てるようになるまで考えなさいと常に言われていました。でもそういったことを考えることで、役の奥行きや、その場にいることの絶対的な自信が付いてくるので、それを学ぶことが出来たのは役者としての財産だなと思っています」 ーーー倉本聰さんの脚本にはどんな魅力がありますか? 「登場人物が全員不器用なところですね。先生がよく『人間の弱点にこそ共感する。だからその弱点を描きたい』と仰ってるんですけど、人のダメな部分や目を背けたくなるようなことを描くことで共感できる作品になる。人間の弱点を掬い上げて昇華してくれるところが魅力だと思います。生きてていいんだなと思えるというのは大袈裟ですけど、励まされている方は沢山いる気がします。『北の国から』は最近になって観たんですけど、ボロボロ泣いてしまって…。これだけ人の心を揺さぶる作品を作る人って凄いなと改めて思いましたし、登場人物の生き様に励まされて、自分も頑張ろうと思えるんですよね」 ーーー菅野さんが普段ライフスタイルで大切にしていることはありますか? 「本当に必要なことなのかを考えることを意識しています。1日3食を食べる習慣であっても、お腹が空いてなければ食べる必要はないよねとか、流行ってるからその洋服を買うとか、そういうなんとなくに流されて決めるのは嫌だなと。もし世の中と違っていても、自分がより快適に過ごせる方を選択していきたいなと思っています」 ーーー最後に本作を観る方にメッセージをお願いします。 「分かり易い作品ではないとは思うんですけど、その分自分がどんなことに心惹かれるのかが感じやすいのではないかなと思います。若い人だからこそ響く部分もあると思いますし、何に心動かされたのかを考えながら楽しんでいただけたら嬉しいです」 (取材・文:福田桃奈)