ソフトバンクG出資のレモネード、DeFiで「不可能だった保険」を可能に──異常気象に困窮するアフリカの農家を救えるか【取材】
ケニアで約7000の農家が参加、旧型の携帯電話で加入できる保険
昨年までに、ケニアの約7000の農家がレモネード・クリプト気候連合の試験プロジェクトに参加し、3度目の収穫期を迎えた。アフリカ大陸の一経済大国とは言え、ケニアの農業従事者のほとんどはスマートフォンを持っていない。 したがって、同連合の保険は旧型の携帯電話(フィーチャーフォン)から加入できる仕組みを使ったと、レモネードの事業開発部長で、同連合の組成をリードしてきたロイ・コンフィーノ(Roy Confino)氏は話す。 一方で、ケニアの総人口約5600万人の7割以上が、モバイル送金システムのエムペサ(M-PESA)を日常的に使う。ケニア最大の通信会社サファリコムが開発したエムペサは、ショートメッセージ・サービス(SMS)を利用することで、スマホでなくてもモバイル送金決済ができるため、2007年の誕生から爆発的に普及してきた。 銀行口座の開設ペースより、携帯電話の普及速度の方が速いと言われる大陸だが、ケニアに限らず、「サブサハラ(サハラ砂漠の南側)に住む農家の過半数以上はスマホを持っていない」とコンフィーノ氏。 「農家はレモネード・クリプト気候連合のプラットフォームとのコミュニケーションをフィーチャーフォンで行う。保険加入と保険金の受け取りはエムペサで、通貨はケニアのシリングが基本だ」
DeFiの導入、アフリカ全土を網羅する計画
試験プロジェクトでは、チェーン上に存在する資金は農家が法定通貨で支払った保険料と、レモネード財団や他のパートナー企業からの補助金の合計となる。ケニア・シリングや他の法定通貨から暗号資産に交換したり、保険金を支払う際には暗号資産から法定通貨に交換するといった基本的なプロセスを行う。 現在、レモネード・クリプト気候連合は、プロジェクトを次のステージに移行させる準備を進めている。まずは、チェーン上でピアツーピアで行う金融取引「DeFi(分散型金融)」の導入だ。DeFiは、暗号資産の貸し借りを含む多様な取引を通じて利息やリターンを取得できる、いわば「チェーン上の資産運用市場」として注目されている。 現時点で、DeFiで運用されている資金は米ドル換算で約830億ドル(約12.7兆円)にのぼる(Defilamaのデータ)。 従来の保険会社は、保険金を保険加入者に長期的・安定的に支払える体制を維持するため、集めた膨大な資金を公社債や株式、外国証券、不動産などの資産クラスを中心に運用している。これに対してレモネード・クリプト気候連合は、アフリカのデジタル農業保険に特化したDeFiプロトコルの開発と試験運用を検討していると、コンフィーノ氏は話す。 また、同連合はアフリカ全土に保険サービスを展開するため、ケニアのインシュアテック企業、プーラ(Pula)とパートナーシップを結んだ。プーラは、海外の再保険会社や政府機関と連携し、ケニアやナイジェリア、タンザニア、モザンビークで農産物保険と家畜保険の普及を進めている。