「怒られるだろうな」不安だったが…思いもよらない称賛 米国で知った“多様性の尊重”
文部科学省から大分・玖珠町教育委員会に出向 上田椋也さん(28)
父の仕事の関係で小学2年の時に渡米した。ロサンゼルスの現地校に中学2年まで通った。 【写真】登校した子どもたちをハイタッチで迎える「くす若草小中学校」の小原猛校長 中学でジャーナリズムの授業を選択。チームで新聞を作る課題では、記事を書くほどの英語力はなく、写真を撮ることしかできなかった。 「1行も記事を書いていないので先生に怒られるだろうな」と不安だった。 後日、担任に呼ばれた。「この写真を撮ったのは君だね。写っている人の気持ちが手に取るように分かる。写真そのものがジャーナリズムだ」。思ってもみなかった称賛。個性や多様性を尊重する米国の文化を身をもって知った。 米国の教育制度を全面的に肯定しているわけではないが「子どもを画一的な視点で評価するのではなく、その子が力を発揮できる点をよく見て評価するんだ」と、今も心に残る出来事となっている。 その後、古里の静岡県浜松市に帰国。バイクメーカーなどの工場が立ち並び、外国人労働者の多い街だ。 彼らの子の一部は日本の学校で学んでいた。日本人と同じようにできないと、教師が怒る姿をよく見た。 「私が米国で『アメリカ人と同じように記事が書けないのか』と怒られていたら、どんなにつらかっただろう」。この経験から「多様な子どもたちを包み込む学校にしないといけない」との思いを抱き、教育の道を志した。 教育のルールそのものを変えたいと2019年、文部科学省に入った。入省直前の3月には自費でオランダを訪ね、教育研究家リヒテルズ直子さんの企画する現地研修に参加。異年齢学級を設けたり、障害のある子もない子も一緒に学んだりと多様性を重視する「イエナプラン教育」の実践校を、自分の目で確かめた。 現地の教室で、子どもたちは学ぶテーマを自ら決め黙々と取り組んでいた。議論する際は打って変わって活発に意見を交わす。 教師の役割は、児童生徒が主体的に動けるよう促すこと。子どもたちが社会に出た後、自ら考え、行動を起こせるよう指導することに力点が置かれていた。 この方針は、不登校特例校の「くす若草小中学校」にも採用されている。 玖珠町との縁ができたのは昨年7月。文科省の現場研修制度で、町教育委員会にやって来た。1年間の予定だったが、不登校の子を受け入れる同校設置の動きが具体化したため、関係者と開校準備に奔走。今年4月からは参事の肩書で町教委に出向している。 今は、不登校特例校設置を目指す自治体の視察の案内を一手に引き受ける。その際には必ずこう伝える。「まず地域と一緒に行動を起こしましょう。教育改革を進める全国の自治体が味方になって後押しします」