インド総選挙で露呈した「経済好調」の不都合な真実、モディ政権への厳しい審判で政局混乱、株・通貨ルピーの行方は
■ 「人口ボーナス」を無駄にする可能性 女性労働力の未活用も深刻な問題だ。 インドでは女性の生産年齢人口(15歳から64歳までの人口)の3分の1しか働いていない(2022年度)。この数字は低中所得国の平均値である約50%や中国の約70%を大きく下回っている。 世界銀行も同様な見解だ。 4月上旬に発表した報告書で「インドなど南アジア諸国における雇用創出が生産年齢人口の増加に追いついていないため、『人口ボーナス(全人口に占める生産年齢人口の比率が上昇することで経済成長が促される現象)』を無駄にする恐れがある」と危惧している。 昨年の人口が中国を抜いたことでインド経済に対する注目度が飛躍的に高まっているが、インドは豊富な若年労働力を経済成長の「武器」にすることができていない。 だが、BJPが掲げた総選挙のマニフェスト(政権公約)には、雇用増につながる具体的な経済政策は示されていなかった。
■ 外資の誘致も大規模な雇用創出につながらず モディ氏は2014年の政権発足時から「メイク・イン・インディア」の旗印の下、雇用創出能力が高い製造業の振興に努めてきた。インド政府は法人税の引き下げなどを行い、米電気自動車(EV)大手テスラや米アップルなどのグローバル企業の誘致に躍起になっている。だが、大規模な雇用が創出される結果につながっていない。 そればかりか、「モディ政権が縁故資本主義(政府との契約などで特定の大企業を優遇)を進めたせいで、英国の植民地時代よりも格差が広がった」との批判が出ている。 このようなアンバランスを解消するため、インドの専門家からは「政府は雇用創出に貢献する中小企業を育成せよ」との声が上がっている。 インドでは中小企業向け金融は発達しておらず、税制面でも不利な状況に置かれていることから、非農業部門の雇用における中小企業の約4割に過ぎない。この比率は世界平均から見てかなり低い水準だと言わざるを得ない。 モディ氏が進めるヒンズー教徒向けのアイデンティティー政治も経済にとってマイナスだ。