インド総選挙で露呈した「経済好調」の不都合な真実、モディ政権への厳しい審判で政局混乱、株・通貨ルピーの行方は
6月4日に開票されたインド総選挙で、モディ首相に厳しい審判が下った。 圧勝との見方もあったが与党は大幅に議席を減らし、政局の混乱が懸念される。 インド株や通貨ルピーは急落。経済の好調ぶりをアピールしてきたモディ政権が覆い隠してきた不都合な真実の数々とは。(JBpress) (藤 和彦:経済産業研究所コンサルティング・フェロー) 【写真】モディ首相はヒンズー教至上主義的な立場を進め社会の分断を加速した 世界が注目していたインドの総選挙は予想外の結果に終わった。 モディ首相率いる与党・インド人民党(BJP)が大幅に議席を減らした。BJPは240議席を獲得し、第一党を維持したものの、過半数の272議席に届かなかった。 BJPを軸とする与党連合(NDA)が293議席にとどまったのに対し、野党連合(INDIA)は229議席を獲得する勢いだ。 モディ氏は首相続投の意向を表明したが、INDIAは政権樹立を模索する構えを見せており、今後政局が混乱するとの懸念が生じている。 NDAの苦戦が災いしてインド株や通貨ルピーは急落した。「与党圧勝」との事前予想から過熱気味だった金融市場は今後、軟調に転じることになるだろう。 BJPはモディ氏の個人的な人気を前面に出して戦ってきたが、国民から予想外の厳しい審判を受けた形だ。 だが、筆者は「当然の結果だった」と考えている。
■ GDPは2倍になったが失業率は上昇 今回の総選挙の最大の争点が失業問題だったからだ。 2014年に首相となったモディ氏はインドの国内総生産(GDP)を2倍にしたのにもかかわらず、失業率は悪化している。 2022年度(2022年4月~2023年3月)の失業率は、モディ政権発足前の2013年度の4.9%から5.4%に上昇した。民間シンクタンクによれば、今年2月の失業率は8%にまで上昇したという。 靴磨きなどの露天商や建設現場の日雇い仕事など、行政が把握できない経済活動のことを「非公式部門」と呼ぶが、国際労働機関(ILO)によれば、インドの就業者の約9割が非公式部門に属しているという。彼らは低賃金などにあえいでおり、経済成長の恩恵に浴していないのが実情だ。 ILOはさらに雇用市場の構造的な問題点についても指摘している。 3月末に発表した報告書で「インドの大卒者の失業率は29.1%で、読み書きをできない人(3.4%)の約9倍に達している」と指摘し、雇用市場に深刻なミスマッチが生じていることに警鐘を鳴らしている。