校正者は役目を終えたのか(5)AIが人間から校正の仕事を奪う?
校正に携わるのは、人間だけではない。単純な間違いを見つけるのは機械が得意とするところだ。校正支援ソフト自体は、以前からすでに存在しており、人工知能(AI)の開発も進んでいる。AI校正者は、人間の仕事にどこまで近づけるのか。そして、将来は人間から校正という仕事を奪ってしまうのだろうか。
ジャストシステム(東京都新宿区)は2004年に、文章校正支援ソフト「Just Right!」をリリースした。新聞社や放送局での校正にかける時間短縮が開発のきっかけだった。同社以外にも、NTTデータ東北(宮城県仙台市)が校正支援ソフトを手掛けるほか、LINE(東京都新宿区)のように、社内で独自開発する会社もあるが、同社の強みは日本語入力システム「ATOK(エイトック)」で培われたノウハウだ。 Just Right!は、文章を読み込ませて校正実行ボタンを押すと、誤字脱字や表記基準の違反など、訂正を検討すべき箇所を着色して指摘する。たとえば、文章中に「肥沃な」という言葉があった場合、「読み仮名をつけるべきでは?」と指摘するだけでなく、置き換え候補として「肥沃(ひよく)な」「肥えた」「豊かな」を提示する。 同社EPS事業部の松木俊之・マーケティング部長(46)によると、主な顧客は、新聞社や放送局だが、マスコミ以外でも、メーカーや製薬関係の会社、コールセンター業務を行う会社が導入している。ここ数年は、インターネットメディアの導入事例が増えつつあるという。 同社では、2017年12月のATOKバージョンアップで、AI技術を活用した入力支援機能「ATOKディープコレクト」を採用。ディープラーニングの活用により、入力ミスを自動修復する機能を従来よりも強化した。校正以前の執筆段階で誤入力を正すという方向性も模索している。
新聞社内の校正ノウハウをシステムに活用
朝日新聞社メディアラボ(東京都中央区)でもAIを活用した校正支援システムの開発を進めている。こちらは、新聞社として培ってきた校正ノウハウを活用し、校正の自動化の実現を目指している。 「AIによる校正システムができれば、校正を自動化できるのではないかと開発が始まりました」。朝日新聞社メディアラボの田森秀明氏(39)はそう話す。メディアラボは、新規事業の開発や研究開発を行う部署で、田森氏の名刺には「博士(情報科学)」とある。校閲記者の経験はないという。 AIを使ったシステムの開発が始まったのは、2015年12月。記者が書いた原稿と、その校正履歴が保存されているのに着目した。校閲記者が、どこをどのように修正したのかをAIに学習させれば、校正ノウハウを反映した自動校正システムができるのではないかと考えた。 新聞記事はいくつもの文で構成されているが、これらを一つひとつの文に分解。修正前の文と修正後の文を一対として、AIには約100万対を学習させた。2017年9月にプロトタイプが完成した。 訂正すべき単語がみつかると、その背景を着色し、最適な置き換え候補の単語を提示する。たとえば、「県警は8日、熊谷署に100人体制の捜査本部を設置」という文で、「体制」という単語を訂正すべきだとAIが判断した場合は、「体制」の背景を着色。置き換え候補として「態勢」という単語を提案する。 置き換え候補の提案だけではなく、不要な単語の削除や、必要な単語の挿入の実現も目指している。田森氏は「(2015年の)取り組み開始から3年を目安に開発成果を出したい。今年の終わりか来年には何らかのものを出したい」と話し、社内向けより先に、社外向けのサービスとして事業化させる可能性も検討している。 ただ、正誤に規則性のある校正と違い、文章全体を読み込んで、文脈を理解し、その誤りを正す校閲については、自動化は容易ではないだろう。