校正者は役目を終えたのか(5)AIが人間から校正の仕事を奪う?
校閲の自動化は困難、これからも人間の力が必要
これらのシステムが実現すれば、この先、校正者という職業はなくなってしまうのだろうか。統一された表記基準を持つ新聞業界と出版業界とでは、多少、事情が異なる。 日本エディタースクール(東京都千代田区)の稲庭恒夫社長(66)は「出版物の校正・校閲の方針は1冊ごとに違う。文法上正しくない表現であっても、著者がそれで良いと判断し、そのまま採用している場合もある」と、単純に機械化できる仕事ではないと強調する。 校閲は、校正以上に文章を読み込む力が必要だ。「太陽が西から昇る」という文は、一般的に間違いであり、「太陽は東から昇る」という常識的な知識さえあれば間違いの指摘はできる。しかし、ファンタジー小説であれば、「西から昇る太陽」の世界はありうる。そうした世界が描かれているのであれば、その小説内ではそれは正しい。むしろ「東から昇る太陽」という表現に対して指摘をしなければならない。 朝日新聞社メディアラボの田森氏も「校正はAI技術でカバーできる可能性があるが、校閲の自動化は困難。人間の力がこれからも必要」と話す。 校正・校閲という作業は、単純作業ではないと強調するのはフリーの40代の男性校正者だ。「小説家のなかには、一つの文がやたら長い人もいる。著者の個性を理解した上で、変更を提案すべきところと、してはいけないところを切り分ける必要がある」と校正の難しさを指摘する。 「ゲラは何時間読んでも苦にならない。著者の伝えたいことを理解した上で、どうすればより読者に伝わるかを考えるのにやりがいを感じる」とも話し、読者の顔を想像しながら進める仕事の魅力を語る。さらに職業倫理にも踏み込み、「ニセ医学ではないかと疑われるような信憑性のあやしい書籍の仕事は、人を傷つける可能性があるので断る」と言い切る。 校正・校閲という仕事は、人間味を伴った仕事であり、単なる文字の連なりとしての文章からは読み取れない範囲にも校正者の気配りが及んでいることを示唆しているのだろう。そういう意味では、今後もしばらくは、AIに代わりが務まりそうにない仕事なのかもしれない。 (取材・文:具志堅浩二)