孤独死した父の死亡届を娘の名で無断提出 火葬後、遺留金品も処分
死後に引き取り手のない遺体が急増する中、遺体や遺留金品の対応をめぐり、トラブルが相次いでいる。 【写真】父親の死亡届について語る斉藤美香さん 岩手県在住の看護師、斉藤美香さん(42)は3月、父親(当時67)の可能性がある身元不明の遺体が発見されたので、DNA鑑定をしたいという連絡を受けた。 その遺体は埼玉県戸田市にあるワンルームマンションで発見され、見た目では判別できない状態の「孤独死」だった。 鑑定は承諾したものの、父親とは25年以上、会っていなかった。父は母と離婚後、埼玉県に転居して再婚したが、数年前に離婚。身体障害者となって仕事ができなくなり、生活保護を受けながら戸田市で一人暮らしをしていたという。 蕨(わらび)署の担当刑事から、遺体を引き取る意思があるかと尋ねられたが、岩手県で結婚し、働きながら子育てしている状況から「現実的に遺体を引き取るのは難しいかも」と正直な気持ちを話した。 4月12日に蕨署から「DNAが一致した」と連絡があり、後の対応は戸田市役所に引き継ぐと言われた。しかし市から連絡がないまま、7月3日に突然、弁護士事務所から内容証明郵便で通知が届いた。「(父親が)2月に亡くなったと、妹の名で死亡届が出ているのに、部屋が片付いていない」という。 美香さんも妹も、死亡届を出した覚えはない。不審に思い、父親の戸籍を取り寄せてみると、死亡届は妹の名前で4月19日に戸田市に提出されていた。 驚いて戸田市役所に電話をかけ、誰が死亡届を出したのかを聞いてみたが、明確な答えはなく、火葬日もわからないという返答だった。蕨署の担当刑事に連絡をとると、父の部屋からは現金61万1千円、クレジットカード、預金通帳などの遺留品も見つかったという。遺留品は警察から市に引き渡されたことを、そこで初めて知らされた。 戸田市の担当者に改めて尋ねると、「遺留金品は葬儀屋に渡してすべて処分した」と説明された。葬儀社にも確認すると、遺留金61万1千円はすべて使うようにと市の担当者に渡されたので、その額で領収書を切ったが、実際の火葬、永代供養費は19万8千円だったという。残金41万3千円は遺族に返却された。美香さんらは返却されたお金を、父が住んでいた部屋の特殊清掃費に充てた。 その後、美香さんは戸田市に、死亡届提出や遺留品処分の経緯や、遺族に連絡がなかった理由などについて説明を求めた。 市からは、生活支援課長名で「警察から『遺体、遺留金、遺留品については、遺族の方が引き取らない』と連絡があったため、無価値なものとして葬祭業者へ処分を依頼した」「死亡届は、警察が長女、次女とやりとりしていることを把握していたので、次女の情報を(葬儀業者に)伝えた」「(遺族への連絡は)警察が説明したと理解していた」などと回答があった。 記者が改めて取材すると、市は「緊急を要すると判断した対応だった」(生活支援課)と回答。葬儀社の担当者は取材に「市の担当のご指示によるもの」と答えた。蕨署は手続きに問題はないとしたが、詳細は「確認できない」と答えた。 厚生労働省による実態調査で、引き取り手のない遺体の取り扱いを定めたマニュアルや内規が「ない」と回答した自治体は、88・2%に上る。(編集委員・森下香枝)
朝日新聞社