藤ヶ谷太輔の演技に引き込まれる…原作との違いに宿る独創性とは? 映画『傲慢と善良』考察&評価レビュー
藤ヶ谷太輔と奈緒の演技が素晴らしい
先述の前田美波里も含めて、映画に登場するサブキャストもすばらしい演技を披露していたが、やはり主演を務めた藤ヶ谷太輔と奈緒の熱演には触れなければならない。 「人生で1番刺さって感銘を受けた大好きな作品」だと述べるほど、原作の大ファンだった藤ヶ谷太輔は、知的で人当たりのいい架を演じつつも、内面に潜ませる鈍感さをさりげなく言動に含ませる演技が光った。 そして、キャスティングが発表された際、イメージしていた真実の姿にぴたりと重なった奈緒。彼女はまさに原作を読んだときに抱いた真実の不安定な心の揺れ動きを、ていねいに汲みとった演技が印象的だった。 特にそれを顕著に感じたのは、会話に生じる一瞬の間。 相手の言葉を遮らないように口をつぐむ。愛想笑いでごまかす。そんな当たりさわりのない対応を繰り返しながらも、自信の無さの隙間で見え隠れする自己愛が、それぞれの対話を通して見事に表現されていた。 物語が進んでいくたびに、登場人物たちはどこまでも痛々しく映る。もしかしたら、最後まで観ても、彼らの考えや価値観に共感できない人もいるかもしれない。 それでも、抑えようのない胸騒ぎがするのは、きっと自身のなかにも彼らの“善良さで取り繕った傲慢さ”と似たような、心当たりのある体験があるからではないだろうか。 また、原作を読んだ人にとっても、文章では見つけられなかった架と真実の心情の変化をシームレスに目の当たりにできる映画だと思うので、ぜひ劇場に足を運んでみてほしい。 【著者プロフィール:ばやし】 ライター。1996年大阪府生まれ。関西学院大学社会学部を卒業後、食品メーカーに就職したことをきっかけに東京に上京。現在はライターとして、インタビュー記事やイベントレポートを執筆するなか、小説や音楽、映画などのエンタメコンテンツについて、主にカルチャーメディアを中心にコラム記事を寄稿。また、自身のnoteでは、好きなエンタメの感想やセルフライブレポートを公開している。
ばやし