なぜ変わらない?教員に残業代出ない「給特法はおかしい」廃止を阻む5つの難点 中教審、教職調整額「月給の4%から10%以上」提案
長時間勤務が常態化し、教員のなり手不足が深刻な学校現場では、かねて残業代を支払わないことを定めている教職員給与特別措置法(給特法)の見直しが叫ばれてきた。中央教育審議会の特別部会は5月13日、この給特法を維持するとともに、残業代の代わりに支払われている教職調整額を4%から10%以上に引き上げることなどを提案した。残業代を支払わない枠組みに変わりはないため批判が高まっているが、「給特法の廃止にも難点や懸念されることがある」と指摘する教育研究家の妹尾昌俊氏に徹底的に解説してもらった。 【表で見る】日本の公務員は「労働基本権」が大きく制約されている。給特法廃止で労働基本権を取り戻して36協定を結んだとしてもうまく機能するかはわからない。 公立学校教員に残業代(時間外勤務手当)を支給しない、教職員給与特別措置法(以下、給特法)を維持する方針が、5月13日の文科省の中央教育審議会(以下、中教審)で決まった。 報道されているように、このことに対して、現役教員や研究者、弁護士などからの批判は強い。「仕事が多いなら残業代を出すのは当たり前だ」との考えは共感できるが、残業代を出す制度が本当に望ましいベストな選択と言えるかどうかは、少し立ち止まって考える必要がある。 ここでは、中教審での検討結果や問題を含めて解説する。なお、私も中教審の臨時委員として今回の審議に関わってきたが、代表する立場ではないし、個人の見解を述べる。 ※ 中教審での筆者提出資料
給特法の問題はどこにあるか
まず、現状はどうなっているのか。給特法という特別法が公立学校教員(以下、教員)には適用されており、残業代は出ていない。ただし、月給の4%が教職調整額として加算されている。教員にも労働基準法は適用されているのだが、給特法において時間外勤務手当などの一部を適用除外としているのだ。 教員志望者の減少や教員不足・欠員など、人手不足が深刻化する中で「残業代を支給しない給特法を変えるべきだ」という意見は多方面から寄せられている。給特法廃止論とここでは呼ぶことにするが、その主な理由は3点ある。 給特法廃止論の主な理由、論拠 1. 時間外の業務の多くを「労働」として認めて、対価を払うのは当然である。また、そうした時間外の業務を使用者(校長、教育委員会)の管理監督責任のもとに置く必要がある。 2. 時間外勤務手当(割増賃金)というサンクション(制裁)を使用者に課すことで、使用者のコスト意識を高めて、業務の精選、見直しなどを加速させる。 3. 36協定を結ぶことで、労使間のコミュニケーションを通じて、業務の拡大に歯止めをかける。 これらは逆に言えば、現行制度である給特法の問題なのだが、ある程度、説得力があるように思う。とりわけ、大学生らにとっては、働いたのに残業代も出ないようなアルバイトや仕事はほとんどないし、「給特法はおかしい」と感じている人も多いことだろう。 だが、どのような制度もいいことづくめではなく、廃止にも難点や懸念されることがある。功罪を冷静に考えて、なるべくプラスが大きく、マイナスが小さくなるような制度とするべきだ。給特法廃止論の論拠に対応させながら、説明しよう。