雇用維持に黄信号 業績低迷のUSスチール
【ニューヨーク時事】日本製鉄による米鉄鋼大手USスチール買収を巡り、バイデン米政権が正式に中止命令を出した。 鋼材出荷の落ち込みなどを背景にUSスチールの業績は近年低迷。日鉄からの投資がなければ、一部製鉄所が閉鎖に追い込まれる可能性があり、雇用維持に黄信号がともりそうだ。 1901年創業のUSスチールはかつて、世界最大の鉄鋼メーカーとしてその名を知られた。しかし、日欧からの鉄鋼流入などが響いて競争力が低下。2024年7~9月期決算では純利益が前年同期比6割減と、業績不振に歯止めがかからない。23年夏には身売りを含めた戦略的選択肢の検討開始を公表し、日鉄が同年12月、総額2兆円で買収すると発表した。 この買収について、雇用維持が危ぶまれるなどとして全米鉄鋼労組(USW)が猛反発。大統領選で労組票を取り込みたい民主、共和両陣営も異論を唱え、政治問題に発展した。日鉄はUSWと協議を重ねたものの、溝は埋まらなかった。 日鉄は買収完了に向け、トランプ前政権で国務長官を務めたマイク・ポンペオ氏を助言役として起用。同氏は昨年8月、米紙ウォール・ストリート・ジャーナルに寄稿し「米国の鉄鋼産業を強化できるまたとない機会だ」と、買収の意義を強調したが、米政界には響かなかった。 USスチールは昨年9月、買収が不成立となれば「数千の職がリスクにさらされ、地域社会に悪影響を与える」と警告した。USWのかたくなな態度とUSWに同調した政治家の姿勢が、かえって雇用を減らす皮肉な結果を招く恐れがある。