「望む形の復帰ではないことを、命をかけて表現しようとしたのか」――復帰1年後に国会議事堂に激突死した沖縄の青年が残すもの
安隆さんが国会議事堂に突っ込んだとき、現金305円と高速道路の半券しか持っていなかったという。 「テンションが幕末なんですよ。命をかけて国を変えるという、幕末の志士のような。望む形の復帰ではないということを自分の命をかけて表現したかったのか。国会に突っ込んで亡くなったことを美化しようとは全く思わないですが、現代のぼくたちがそこまでのテンションを持てるかといったら、絶対に持てないじゃないですか。ぼくらが今悩んだり考えたりしていることは、上原さんのような先人たちの歩みの上にあるんだよということを、若い人たちに知ってほしいなと思うんです」 真栄平さんはもともと、ダーティビューティという漫才コンビで活動していた。1998年にコンビは解散、翌年劇団を立ち上げた。お客さんに笑ってもらいたいというのが信条だ。「72’ライダー」もシリアス一辺倒ではなく、復帰っ子たちの悲喜こもごもの人間模様を描く。
真栄平さんよりさらに若い世代は、安隆さんの死をどう受け止めるのだろうか。 「72’ライダー」で主人公の安隆役を演じた平安信行さん(47)は復帰2年後の1974年生まれだ。本作を通じて安隆さんの存在を知り、復帰について深く考えるようになった。 「復帰前後に生きていた、安隆さんたちのような沖縄の若者も、当たり前に楽しいことをやりたいとか、幸せになりたいと思っていたと思うんです。彼らにとっての幸せってなんだったんだろうと思うんですよね。自分たちのことよりも、沖縄の未来や子どもたちの未来のことを一番に考えたりしたのでしょうか……」 「72’ライダー」が上演されたホールの入り口に、安隆さんのヘルメットが展示されていた。激突したときにかぶっていた遺品だ。そこだけぽっかりと、時空に穴があいているようだった。
ヘルメットは、普段は兄の安房さんが自宅で保管している。今回の公演の前に、真栄平さんはヘルメットを借りるため、安房さんを訪ねた。そのときに、上原家の仏壇に手を合わせ、安隆さんに挨拶をした。 「10年ぶり(の再演)ですみませんって言いました。あとは、ちゃんと無事に成功させますよと。少しでもたくさんの人に上原さんのことを知ってもらいたいと思って上演するので、見守っていてくださいとお願いしました。沖縄では、米軍がらみの事件は減ったかもしれないですけど、構造的には何も変わっていません。だから、安隆さんに申し訳ないような気がするんです」 「72’ライダー」にこんなシーンがある。 沖縄を出て内地で働き始めた「安隆」は、ある女性とこんな会話をする。「沖縄はいつも本土から見捨てられる。なんでですか? 沖縄はあなたが思うようなところではない」「ごめんなさい、私そういうのよく分かんなくって」。「安隆」はこう答える。「いいんです、悪いのは政治ですから。でも、もっと悪いのは無関心です。謝るくらいなら、もっと沖縄を知ってください」