12月に入って相次ぐ無罪判決…裁判官への署名活動や抗議活動は正当か?
【「表と裏」の法律知識】#263 12月に入り、「紀州のドン・ファン殺人事件」の裁判員裁判で無罪判決が下されたことに続き、「猪苗代湖ボート死傷事故」と「滋賀医大生性的暴行事件」で高等裁判所が逆転無罪判決を下し、社会的注目を集めています。特に「滋賀医大生性的暴行事件」の無罪判決については、証拠の中に被害者の方が「苦しい」「嫌だ」と発している動画があるとの情報が拡散されたこともあり、ネットを中心に無罪判決が相当ではないとの抗議の声が上がり、署名活動や抗議活動に発展しています。 SNS不適切投稿で罷免された元判事が審査請求書を最高裁に提出 「退職金不支給処分」の取り消し求める 大前提として、裁判制度も判決内容も裁判官も、国民の信用の上に成り立つべきものなので、法律の知識を有するか否かを問わず、意見や批評は自由になされるべきだと思います。 もっとも、批評の前提となる報道自体が、記事の注目度を上げるために判決の核心的な理由部分や証拠を引用するのではなく、センセーショナルな証言や判決文を引用する傾向もあります。それゆえ、不正確な情報がSNSなどを通じてより不正確に拡散されてしまう事態も多く見られます。 そして今回注目を浴びているのが裁判官の罷免を求める署名活動です。 高裁の裁判官の罷免を求める署名は「裁判官訴追委員会」に宛てられたものだったようですが、法律上、裁判官が罷免されるのは、「職務上の義務に著しく違反し、または職務を甚だしく怠った」場合、あるいは「その他職務の内外を問わず、裁判官としての威信を著しく失うべき非行があった」場合のみに限られます(裁判官弾劾法2条)。つまり、裁判官が下した判決の内容が不当であったとしても、これらの要件には当てはまらず、罷免となる余地はないのです。 今回のような騒動は、議論が感情的になりやすい傾向にありますが、情報に流されず、冷静な視点を持つことが、法曹界の発展につながるのではないでしょうか。 (髙橋裕樹/弁護士)