「光る君へ」なぜ“手”をクローズアップ?心に美しい残像を生むために~タイトルバックの裏側
「見終えた後に残像として心に残るものが重要」とする考えは、本作に限らず市耒がテレビCMや短編などの映像制作の際にも、常に意識していることだという。 「極端な言い方をすると見ているもの自体はあまり大事ではなくて。例えばキスシーンがあったら、“キスシーンを見た”以上の広がりはないと思うんですけど、男女の手が触れるか触れないかの状態にあって、光に包まれていたりしたら、細胞の律動というか、物語を見る人ひとりひとりにゆだねることができますよね。美しい映像なのはプロだから当然ですが、視覚的な抽象要素の群像が、見る人にどのような物語を起動することができるか。だからすべてのものをいかにメタ・ポエティックに撮れるかということにこだわりました。もしかしたら、手以外の方法もあったかもしれないけど、ちょうどよかったのかな(笑)」
劇中でも、幼いころに運命的な出会いを果たしたまひろと道長は再会と別れを繰り返し、遠く離れていても月を見上げては互いに思いを馳せ、数奇な縁で結ばれている。市耒が手掛けたタイトルバックは、そんな二人の思いが込められているかのような奥深さに満ちている。(取材・文:編集部 石井百合子)