<映画評>笑いありのヒューマンドラマの傑作『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』
白黒のスクリーン。そこに映し出される映像はゆっくりとゆっくりと流れていく。舞台はモンタナ州からネブラスカ州までの道程。そして、ネブラスカの田舎町。登場する人たちには、決して華やかさは感じられない。言ってしまえば、高齢者ばかりだ。無口な父親、口の悪い母親、控えめな性格の息子…。それでも、温かみを感じる作品に仕上がっている。笑いあり、大笑いあり。じわじわとひき込んでいく。緊張感はほとんどない。だが、誰もが共感できる日常的な笑いがそこにあり、結果、興奮に近い満足感を味わうことができる傑作だ。
監督は「ファミリー・ツリー」、「サイドウェイ」でアカデミー賞脚色賞をそれぞれ獲得しているアレクサンダー・ペイン。自身が高校時代まで過ごした故郷のネブラスカを舞台にヒューマンドラマを見事に描いている。 ストーリーは、高齢の男性、ウディが高速道路を“徘徊”し、保護されるところから始まる。“徘徊”した理由は、「100万ドルお渡しします」という詐欺まがいの手紙を受け取り、その賞金を受け取るために、歩いてネブラスカへ向かったため。ウディの住むモンタナ州ビリングスからネブラスカ州リンカーンまでの距離はおよそ1500キロ。周囲の説得を振り切り、何度も歩いてネブラスカを目指す。それを見かねた息子のデイビッドが車で送り届けることを決意し、珍道中が始まるのだが…。 スクリーンを占拠する登場人物が高齢者ばかりのせいなのか、白黒映画だからなのか、思い出話が多いからなのか、“古き良き”時代の話だと思わせるが、時代設定は現在の話。古いものと新しいものが入り混じった世界観を表現しているため、あらゆるシーンで懐かしさを感じさせてくれる。決して気取らず、人の優しさ、人のずるさ、正直さなど、人間臭さを随所にちりばめている。 この作品が受賞、またはノミネートされている賞は1月15日の時点で100を超える。カンヌ国際映画祭での最優秀男優賞をはじめ、数多くの賞から高い評価を得ているが、それも納得できる。友人や家族と感想を語り合いたい、と思わせてくれる作品だ。 ■公開情報 『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』 2014年2月28日(金) TOHOシネマズ シャンテ&新宿武蔵野館ほかにて全国ロードショー! 配給:ロングライド (C)2013 Paramount Pictures. All Rights Reserved.