服は自分を勇気づける鎧。フランスのファーストレディー・ブリジットがルイ・ヴィトンを選ぶ理由
ファースト・レディーのファッションには理由があった
たまたま私がそこに居合わせる、という貴重な機会だったのですが、マクロン大統領夫人は噂にたがわず、聡明かつ気さくな方でした。私はたちまち魅了されてしまいました。長い、真っ直ぐな脚が映える、ミニスカートとブレザーを着こなしています。藍色の上下は大きなボタンが目立ち、凜とした大統領夫人にとてもよく似合っています。もちろん、ルイ・ヴィトンのスーツです。 私がルイ・ヴィトンのスタッフだと知ると、ブリジットさんは声をひそめ、ここだけの話よ、と前置きしながら言いました。 「ルイ・ヴィトンばかり着ているから、よくスタッフに怒られるのよ。違うデザイナーさんの服も着てくださいって。でもね、私、(ルイ・ヴィトンのレディース・デザイナーの)ニコラの服が大好きなの」 どう返事していいのかわからず、とりあえずお礼を言うと、大統領夫人はとても意外なことを言いました。 「私、本当は人前に出るのが苦手なの。緊張しちゃうのよ」 ファースト・レディーではあっても、ブリジットさんも一人の女性。大統領夫人として私の想像を絶するレベルの緊張感やプレッシャーを日々感じているに違いありません。そんな彼女の無言の戦いを垣間見ることができたような、とても貴重な一瞬でした。目を見張っている私の隣でブリジットさんは続けました。 「でもルイ・ヴィトンを着ると勇気が出てくるのよ」 「勇気、ですか?」 思わずオウム返しすると、ブリジットさんはキッパリと言いました。 「そう。ニコラの服は私にとっての鎧のようなモノよ」
自分を貫き、奮い立たせるためには鎧が必要
ブリジットさんがエマニュエル・マクロン大統領より24歳年上の教師であり、大恋愛の末に結婚したのは有名な話です。言ってみれば、ブリジットさんは世間の常識という常識を覆してきた女性です。70を過ぎても気おくれすることなく、ミニスカートと15センチもありそうなパンプスを履きこなしています。 服装からしても、「自分なりを貫く強い女性」というイメージがあった私ですが、そんな彼女が赤の他人である私に向かって、「自分を奮い立たせるためには鎧が必要」とサラリと言うのです。私は驚きのあまり、気の利いた言葉も見つからず、廊下を去り行く大統領夫人の美しい後ろ姿を、ただただ無言で見つめていました。