日産9000人削減の衝撃! ゴーン前会長が残した3つの“負の遺産”とは何か? 「ルノー支配」「販売偏重」のツケが招いた辛らつ現実を再考する
日産業績90%減の背景
日産自動車の9月中間決算は悲惨な内容だ。営業利益は前期比90.2%減の329億円、純利益は同93.5%減の192億円だった。一時的な業績悪化ではなく、構造的な競争力低下が原因である。 【画像】「えぇぇぇぇ!」これが日産自動車の「平均年収」です! 画像で見る(13枚) 同社は大規模リストラに着手する方針を打ち出した。グローバル人員数を9000人削減、グローバル生産能力を20%削減して、年間350万台の生産でも耐えられる規模とする。これから次世代自動車や自動運転の開発競争に多大なコストがかかる中、厳しい時期を迎える。 日産自動車の業績悪化の根源に、かつて最高経営責任者(CEO)として君臨したカルロス・ゴーン氏の残した 「負の遺産」 がある。私(窪田真之、ストラテジスト)は、30年以上前から、日産自動車の決算説明会に出席し、企業価値について分析してきた。ゴーン氏がCEOとなった1999(平成11)年以降は、経営説明会でゴーン氏のプレゼンテーションを何回も聞いた。 あくまでも私の個人的見解だが、ゴーン氏が、日産自動車の株主価値を高めるのに大きな功績があったのは、 「1999年から2005年まで」 だった。2005年にルノーの会長を兼務するようになってからは、少しずつ日産ではなくルノーとフランス政府の方を向いて仕事をするようになっていった。そんなゴーン氏に 「経営の全権を与えてしまった」 のが大きな問題であった。
ゴーン氏が残した三つの「負の遺産」
ゴーン氏が残した「負の遺産」は、次の三つだ。 ・欧州重視、米国・中国の環境変化への対応が後手に ・ハイブリッド車(HEV)・プラグインハイブリッド車(PHEV)のラインアップを持たない ・販売重視、販売奨励金をつぎこんでブランド毀損(きそん) これらについて詳しく解説していく。 ●欧州重視、米国・中国の環境変化への対応が後手に 日本の自動車メーカーはかつて、日本・米国・欧州での事業展開を重視していた。ところが、それはもう20年以上前の話だ。今は欧州を縮小して、日本・米国・アジア(中国など)を重視する時代となっている。欧州市場は成長性が低い上、ドイツの自動車メーカーが強く、日本の自動車メーカーは苦戦を強いられてきた。ホンダは英国が欧州連合(EU)から脱退したことを契機に、2021年に英国工場を閉鎖し、欧州での生産から撤退した。 ところが、日産は2021年まで、仏ルノーに43.3%の議決権を握られていた上に、2017年までゴーン氏がルノーと日産のCEOを務めていたため、欧州事業を重視せざるを得なかった。欧州事業は、今般発表した中間決算でも232億円の営業赤字で、業績の足を引っ張っている。 日産は、経営危機に陥っていた1999年にルノーから約8000億円の出資を受け、経営危機を脱した。そのとき、CEOに就任したゴーン氏のもとで1兆円を超えるコストカットを行って財務を立て直した。 その頃のゴーン氏の発言で、私がよく覚えているのは、 「人件費の高い国には投資しない」 である。日本ではなく、メキシコなど新興国に積極投資していく戦略を説明するときに出ていた言葉だ。それは、日産が生き残るために必要なことだった。 ところが、ルノーのCEOを兼務するようになってから、人件費が高いフランスに生産を移していく戦略をとった。それは、当初聞いていた話から考えると、整合性がない。ルノーにはフランス政府が15%出資しており、 「フランス政府の意向」 がゴーン氏の経営に影響したと考えられる。