宝塚雪組の新トップスター・朝美絢、『愛の不時着』で男らしく温かいリ・ジョンヒョクを熱演
宝塚歌劇団雪組トップスターに就任した朝美絢(あさみ・じゅん)の甘く伸びやかな歌声が、12月22日に「梅田芸術劇場メインホール」(大阪市北区)で響き渡った。 【写真】ユン・セリ(夢白あや)と、心を通い合わせるシーン 2019年に韓国で放送後、世界的大ヒットとなったドラマ『愛の不時着』を舞台化した、『ミュージカル「愛の不時着」』が、東京公演(11月30日~12月15日)を経て同劇場で開幕。韓流×タカラヅカという頼もしいタッグに、本作がトップお披露目となる朝美の豊かな包容力などあらゆる魅力が加わって、充実した劇空間となった。 2022年に韓国でミュージカル化され、今年日本公演もおこなわれた舞台を、宝塚歌劇団の中村一徳が潤色・演出。韓国スタッフが創作した楽曲に乗せて、ドラマの印象的なエピソードを交えながら物語がスピーディに展開してゆく。 北朝鮮のエリート将校リ・ジョンヒョク(朝美)と、韓国の財閥令嬢ユン・セリ(夢白あや)との運命の恋は、さまざまな伏線があり約2時間半で見せるのはたやすくないが、冒頭からミュージカルならではの手法を駆使。ユン・セリがパラグライダーの事故で北朝鮮の非武装地帯に不時着するさまも、「そうやって表現するのか!」と驚く人が多いだろう。 また、この作品はコメディとシリアスの振り幅が大きいのも魅力だが、そこも出演者の愛敬さえ感じる多面的な役づくりや、「風」をテーマにしたドラマティックな楽曲での心情表現で、期待を裏切らない。 特に主役のふたりは、それぞれの人間的な魅力が役に活かされベストマッチ。堅物なジョンヒョクが嫉妬などから見せるかわいい一面、命を懸けてセリを守ろうとする男らしさ。偶然ではない「運命」を信じるジョンヒョクの純粋さや温かさが、朝美の眼差しや歌声からビシビシと伝わってきて、これは観客も心から恋するに違いないと実感できる。軍服だけではなく、ロングコートやスーツなど多彩な衣装でも、ジョンヒョクのカリスマオーラを表現した。 夢白は、北朝鮮の軍官社宅村の夫人たちや、ジョンヒョクの部下たちに見せる天真爛漫な姿と、敏腕経営者として街を闊歩する姿、いずれも美しいスタイルを含めてハマっている。ジョンヒョクへの繊細な心の変化も丁寧に見せて、あふれる涙が実にリアル。朝美と夢白、美しい新トップコンビの門出として、理想的な作品になったのではないだろうか。 また、12月29日付けで専科から雪組への組替えが発表となった男役スター・瀬央(せお)ゆりあが、セリのかつての見合い相手で詐欺師のク・スンジュンを好演。歌声にも一段と深みが増し、場をときに緩め、ときに締めと硬軟自在。ジョンヒョクの婚約者ソ・ダンに扮した華純沙那(かすみ・さな)は、ドラマから抜け出てきたかのような存在感と美しさで、芝居も歌も巧い。 ジョンヒョクを追い詰める軍人、チョ・チョルガンを演じた諏訪(すわ)さきは、豊かな歌声で自身の生い立ちを表現し、鬼気迫る演技。ジョンヒョクの個性的な部下や、北朝鮮の夫人たちを演じた面々など、芝居心あふれる雪組生が個性際立つキャラクターをそれぞれしっかりと届ける。さらにフィナーレも豪華で、韓国のパワフルかつ優雅な面を押し出し、朝美と夢白は真っ赤な衣装でデュエットダンスを披露した。 初日前日の通し舞台稽古では、朝美が最後に笑顔で「寒くなってまいりましたが、体に気をつけて2024年の舞台を締めたいと思います」と、頼もしく語った。同作は「梅田芸術劇場メインホール」で12月28日まで上演。なお、28日13時開演の千秋楽は、全国の映画館でライブ・ビューイング、全編ライブ配信がおこなわれる。詳細は公式サイトへ。 取材・文/小野寺亜紀