氷川きよしの歌に宿るジャンルレスな個性 「限界突破×サバイバー」だけじゃないタイアップ曲の幅広さ
氷川きよしが8月17日、東京ガーデンシアターで『KIYOSHI HIKAWA+KIINA. 25th Anniversary Concert Tour ~KIIZNA~』と題したライブを行い、歌手活動を再開。デビュー25周年イヤーを盛り上げるべく、各地でのスペシャルディナーショーや、全国4カ所の劇場で『氷川きよし25周年記念劇場コンサートツアー ~絆~』の開催がすでにアナウンスされている。 【画像】氷川きよし、プライベートスタイルでアメリカ各地を満喫「お肌ツヤツヤ、笑顔炸裂だな~」 中でも注目したいのは、『氣志團万博2024 ~シン・キシダンバンパク~ supported by ALL FREE』への出演だ。『氣志團万博』は綾小路 翔のアンテナの鋭さで多彩なジャンルの出演者が集まるが、根幹はロックフェスとしてのスタイルを貫いているからこそ、“氷川きよしのロック”が観られるステージになるのではなかろうか。とりわけ、ロックチューン「限界突破×サバイバー」(2017年/フジテレビ系アニメ『ドラゴンボール超』オープニングテーマ)は氷川の活動のターニングポイントだと言えるだろう。同曲のリリースは、それまでの氷川きよしのイメージをガラリと変えるほどの強烈なインパクトを世間に与えた。人気アニメのタイアップ曲ということもありリスナーの層も拡大した。 そこで本稿では、氷川きよしのタイアップ曲をピックアップしながら、そのジャンルの受け皿の広さ、さらにボーカリスト・氷川きよしの魅力に迫っていきたい。 「限界突破×サバイバー」 まずは、先述の「限界突破×サバイバー」に詳しく触れる。ギターフレーズで聴かせるイントロから始まり、ハードロックの趣きを感じさせるスピードチューン。氷川はこの曲を、いい意味で、肩の力を抜いて歌っているように感じる。氷川の歌のスキル、レンジの広さを思えば、軽々歌うことができるのは当然なのだが、ボーカルアプローチは全体を通してかなりストレート。フレーズごとのトーンも、音符にクレッシェンドをかけることなく最初からスパーンと全開にし、ビブラートもほとんどかけていない。間奏では、ギターに呼応するかのような高音で音階を変えるロングトーンを見せるが、最後をあまり伸ばさずスッと引くなど、この曲をしっかり解釈して、的確なアプローチをしていることがわかる。一定して安定した声量と音程をキープしながら、発音で強弱をつけているのも聴きどころだ。〈可能性〉の英語にも通ずる発音、促音の子音や〈ン〉の発音のバリエーションなど、ボーカリゼーションの上手さが随所に見られる。演歌や歌謡曲とは異なるリズム感が必要になる曲だが、氷川はジャストリズムで歌い、曲の勢いを増加させているあたりもお見事だ。 「believe ~あきらめないで~」「未来」 次に取り上げるのは、映画『ウルトラマンメビウス&ウルトラ兄弟』(2006年)で、氷川がKIYOSHI名義で歌唱した主題歌・挿入歌だ。挿入歌の「believe ~あきらめないで~」は、流麗なストリングスとエバーグリーンなメロディが印象的なミディアムチューン。ここで注目したいのは、氷川の発音の上手さである。特別に声を張って歌っているわけではないのに、しっかりと単語レベルで歌詞がクリアにわかるのは、氷川の魅力の一つである発音の良さがあってこそだ。言葉をはっきり伝えようと滑舌を意識した場合、子音の発音に重きを置いた歌唱になりがちだが、氷川の発音には子音を強く発している印象がない。相当なスキルがあるからこそ成り立つアプローチを軽々とやってのけている。ピュアさも内包したグッドメロディを活かしながら、言葉と言葉の間をあまり空けない歌い方を駆使して、ミディアムバラードの優雅な流れにとても上手く寄り添っている。 もう1曲の主題歌「未来」は、音数の少ないイントロから、すぐ氷川の歌に入る。歌い出しも最小限のバックトラックで、弾き語りに近いようなスタイルだ。しかも、歌うには難しいとされる「イ段」と「ン」が入っている歌詞〈銀河の果て〉から歌い出す。この〈銀河〉を氷川は「ギ・ィン・ガ」と発音し、加えて「ン」の前の母音である「イ」にしゃくるような節をつけ、力強さを加えている。母音のロングトーンでも、途中で喉を開いて声音を変え、すぐ元に戻すなどのスキルを見せている。存分な声量を活かしたトーンにより、ヒーロー作品主題歌の王道とも言えそうな軽快なメロディを持つ「未来」の力強さを後押ししている。 「見えんけれども おるんだよ」 続いてテレビアニメ『ゲゲゲの鬼太郎』(2018年~2020年/フジテレビ系)にて、第27~第37話のエンディングテーマとなった「見えんけれども おるんだよ」について触れていきたい。軽快なアップチューンだが、途中でBPMが変わるカオスな1曲でもある。演歌や昭和歌謡を彷彿とさせるメロディラインのバックに流れるのは、お洒落なジャズピアノ、かと思えば三味線、かと思えばゴージャスなホーンセクションだったりと、まさに音楽の百鬼夜行状態。バックサウンドの音数の差し引きも大胆で、目まぐるしくいろいろな要素が展開するスリリングな曲だ。この中で、氷川は〈見えんけれども おるんだよ〉という同じメロディの繰り返しを通して鮮やかにオクターブを変えて歌うスキルを見せ、低音部分で楽曲にダークな趣きを添えている。