英独の極右を支持して憎悪を煽る、トランプの「右腕」イーロン・マスク
<トランプの大統領選勝利に貢献して最側近の地位を手に入れたマスクが、早くも大きな政治力を行使しはじめた。なぜここまでヨーロッパの極右を支持するのか、現地政界は警戒を強めている>
実業家で大富豪のイーロン・マスクは、2025年1月20日のドナルド・トランプ2期目の大統領就任式へ向けてますます政治的な影響力を行使しはじめた。イギリスの極右活動家の釈放を求めたり、ドイツの極右政党を支持するなど、その言動は海外の同盟国にまで及んでいる。 【写真特集】女優から自社の従業員まで...イーロン・マスクの恋人・結婚相手たち テスラの最高経営責任者(CEO)でスペースXの創業者マスクは、2024年の米大統領選挙期間中に多額の献金でトランプ勝利に多大な貢献を果たしてから、米政界で急速に頭角を表した。新政権では政府のムダ削減を担う「政府効率化省(DOGE)」の共同トップに就任する。昨年末には早くも「無駄が多過ぎる」という鶴の一声で米議会のつなぎ予算案を葬って見せ、世界を驚かせた。 マスクがいま目を付けているのは、大西洋を挟んだドイツとイギリスだ。それも両国の極右を支持して世論を扇動し、ドイツでは、近く行われる総選挙の結果にも影響を及ぼすかもしれないと言われる。 マスクは2024年12月、英右派野党「リフォームUK」に1億2700万ドル以上を献金することを検討中だと報道された。一方、ドイツに関しては、ドイツを救えるのは極右野党「ドイツのための選択肢(AfD)」だけだと述べた。AfDは「右翼の過激派」だ、という一般的な評価をマスクは否定している。 英極右活動家の釈放要求が政界に衝撃 新年早々の1月6日にはイギリス政府に矛先を向け、服役中の極右活動家トミー・ロビンソン(本名スティーヴン・ヤクスリー=レノン)の釈放を求めた。 ロビンソンは、人種差別主義的で反イスラムとされる極右政治団体「イングランド防衛同盟(EDL)」の一員で、イギリスの著名な極右活動家のひとりだ。 ロビンソンは現在、法廷侮辱罪で禁錮1年6カ月の実刑判決を受け服役している。シリア難民に対する恐怖と怒りを煽る虚偽発言で2021年に名誉棄損で有罪になったが、それでも執拗に偽の主張を繰り返した。ロビンソンが服役するのは今回で5度目だ。 マスクは1月3日、トミー・ロビンソンが登場する1時間45分のドキュメンタリー動画を丸ごとX(旧ツイッター)に投稿し、「トミー・ロビンソンを釈放せよ!(Free Tommy Robinson!)」と訴えた。 米政治メディアのポリティコは、マスクのロビンソン支持にショックを受けた多数の英国会議員の話を伝えている。匿名希望のある労働党議員は、マスクの発言を「危険だ」と述べ、別の議員は「人を巧みに操るレトリックだ」と呼んだ。 リフォームUKを率いるナイジェル・ファラージも、ロビンソンに関しては「意見が違う」と、マスクから距離を置こうとした。するとマスクは1月5日、リフォームUKの党首交代を求めた。 極右AfDが最後の希望と支持呼びかけ マスクはまた、ドイツの極右政党AfDへの支持も強めている。マスクがXでAfD支持を初めて表明したのは12月20日。その後も、2月23日に予定されているドイツ総選挙へ向けて応援に熱が入っている。ドイツ紙に寄稿した論説で、AfDは「ドイツにとって最後の希望の光」だと述べた。 マスクは、ポリティコの姉妹紙であるドイツの「ヴェルト・アム・ゾンターク」紙(「ディ・ヴェルト」日曜版)に12月28日付で寄稿し、ドイツの有権者に向けて、AfDを支持するよう呼びかけた。AfDは「経済的繁栄、文化的統合、技術革新が、単なる願いではなく現実となる未来へとドイツを導いてくれるだろう」と述べた。 マスクは、自分になぜドイツ政治について発言する権利があるのかと問われて、ドイツに巨額の直接投資をしている点を挙げた。首都ベルリンにはテスラの工場があり、マスクはここを貨物拠点および倉庫へと拡張したい考えだという。 12月20日にドイツ東部マグデブルクでクリスマスマーケットに車で突っ込む事件が起きて以降、移民反対を掲げるAfDの支持率は急上昇している。容疑者は難民認定を受けたサウジアラビア生まれの精神科医で、攻撃により5人が死亡、200人以上が負傷した。 外国の選挙に堂々と介入 マスクのAfD支持表明を受けて、ドイツ政府報道官クリスティアーネ・ホフマンは12月の記者会見で、マスクは「ドイツ総選挙に干渉しようとしている」と批判。「メディアは言論の自由を盾に、とんでもないたわごとまでカバーしている」と語ったと、英紙ガーディアンが報じている。 ドイツでは連立与党の路線対立から連立政権が崩壊し、大統領フランク=ヴァルター・シュタインマイヤーが12月27日に連邦議会の解散を表明。2月23日に議会選挙が行われる。 Xの音声ライブ機能「スペース」では、マスクによるAfD党首アリス・ワイデルのインタビューが予定されている。一方、12月に報道された「英国のリフォームUKに対する1億ドル以上の献金」が実現するかどうかは明らかになっていない。 (翻訳:ガリレオ)
ピーター・エイトケン