<開花の時・’24センバツ>チームの軌跡 北海/上 基本に忠実、逆転の底力 「諦めなければ何かある」 /北海道
詰めかけた野球ファンたちのざわめきは、試合が進むにつれて大きくなっていった。昨年10月3日、札幌円山球場。約1カ月半前の夏の甲子園で16強と躍進した北海は、新チームで臨んだ札幌地区大会2回戦で早くも敗退の危機にさらされていた。強豪・札幌日大相手に六回終了時点で0―5。平川敦監督(52)が「負け試合」と認める苦しい展開となったが、「逆転の北海」は健在だった。 【写真で見る歓喜の瞬間】歴代のセンバツ覇者たち 七回、先頭で打席に入ったのは幌村魅影(2年)。1年春からベンチを外れたことがない実力者は、窮地でも冷静だった。2球目を的確に捉え左前打で出塁すると、1死後、長谷川駿太(同)、宮下温人(同)は連続四球。100球を超えて制球を乱す相手先発の球をじっくり見極め好機を広げる。大石広那(同)、代打・中川彰(同)の連続適時長短打であっという間に1点差に迫ると、九回にも2得点。劣勢に動じることなく、一気に試合をひっくり返した。 勢いに乗ったチームは道大会決勝でも、東海大札幌に最大4点差をつけられながら逆転勝ち。春の道大会、夏の南道大会に続いて秋も制した。 敗戦ムードが漂う試合を2度経験し、一見すると「綱渡り」で頂点にたどり着いたようにも見える。だが、劇的な勝利は決して偶然ではなかった。逆境をものともしない底力はどこから来るのか。平川監督は「粘り勝ちできたのは2年生の経験が大きい」と語る。 昨夏の甲子園1、2回戦では、2試合連続で劣勢を覆してサヨナラ勝ち。現チームで最上級生となった大石や幌村、宮下らは当時から主力で、控えメンバーを含めると9人が新チームに残った。主将の金沢光流(同)は「諦めなければ何かある、と信じる力は引き継いでいる」。百戦錬磨の選手たちの、「劣勢でも動じない心」は旧チーム時代からの財産となっている。 ただ、チームの武器は精神面の強さだけではない。練習から大振りせず、低く、強い打球でつなぐ打撃を徹底。試合で活躍した選手でも、他の打席で凡飛を打てば「ワンプレーが負けにつながる。転がさないといけなかった」と反省の言葉が先に出る。 ボール球に手を出さず、勝負どころでは4番の宮下も送りバントを決める。1試合平均9・1点を挙げた秋の公式戦8試合でチーム本塁打数はわずか1本だが、計80安打で48四死球。基本に忠実な姿勢が浸透し、個々が自身の役割に徹することができるからこそ、土壇場でも力を発揮してきた。 昨春からの道内公式戦での連勝を20に伸ばし、3年ぶりの「春」を射止めた今、チームは本番に向けて成長を続けている。立島達直部長(33)は「今年の1、2年生はまだ細い」と評するが、昨年週3回だった冬場の筋力トレーニングを週6回ほどに増やし、短時間でも毎日続けて強化を図る。今大会から飛距離が出にくい新基準バットが導入されることを踏まえ、平川監督は「低く鋭いライナーを放つにはパワーが重要。雪で屋外で打てない今、筋力をつけなければ」と土台作りに余念が無い。 「地道にランナーをためて、返す野球をしたい。気持ちを一つに、夏以上の結果を出したい」と金沢。粘り強さと堅実さが支える「北海野球」で、初の全国制覇に挑む。【後藤佳怜】 ◇ 3月18日に開幕する第96回選抜高校野球大会に、道内から北海と別海が出場する。憧れの舞台で花を開かせる時を待つ両校選手らの軌跡をたどる。