すぐ真後ろを尾行「刺すように見つめてくる」...反体制派をつけ回す、当局による「執拗すぎる追跡」
真後ろでの尾行
この時、ザフヴァトフ弁護士からまた電話が入った。 「笑える話をしましょうか? わたしのある依頼人の母親が、監視されているというのに、その見張り役に食べ物を持って行ってやっていたそうです」 「ハハハ、わたしならその暇な奴らにゴキブリ殺虫剤入りのパンでも持っていきますけどね」わたしはジョークを返した。「明日、モスクワの中心部に行く用事があります。ドイツの記者と会う約束をしたんです」 「注意してください。何かあったらすぐに電話してください」 翌朝、タクシーを呼んで地下鉄の駅まで行った。タクシーが居住区の外へ出るや否や、ガレージから泥だらけのナンバープレートをつけた灰色のSUV車が飛び出してきて、タクシーの後ろにピタリとついた。タクシーが地下鉄の駅で停車すると、SUV車も停まった。わたしは地下鉄に走った。SUVから飛び出してきた男もわたしの後を走った。 わたしは地下鉄の車両の端に空席を見つけ、座って本を読み始めた。隣に知らない男が座っているのを感じた。男は刺すような眼差しでわたしを見つめていた。 「男のことは考えるな」わたしは自分に言った。「こちらは何も悪いことをするわけじゃないのだから。やりたければ尾行でもなんでもさせておけばいい」 「次は『文化公園』」アナウンスが聞こえた。
尾行からの逃走
わたしは車両から飛び出した。灰色の目立たない服を着た男が後ろをついてきた。乗り換えをしようと、足早にエスカレーターのほうへ向かった。振り返ると、見知らぬ男は2、3メートル後ろにいた。気が動転した。エスカレーターの直前で足を止めると、わたしは人ごみに逆らって、いま来た方向に歩いた。男は対応できず、人波に飲み込まれ、エスカレーターの上まで運び去られて行った。男は刺すような眼差しでじっとこちらを見ていた。 これ見よがしの尾行からは逃れたが、喜ぶにはまだ早かった。今度は監視カメラでわたしを追うのだろう。ここ数年、モスクワでは顔認証システムが稼働していた。警察はこのシステムを使って、プーチンの古くからの政敵レオニード・ゴズマンを地下鉄で逮捕した。反体制派のゴズマンは最初、二重国籍の未申告で訴えられ、その後、SNSの投稿が原因となって2件の行政事件で逮捕された。ゴズマンは30日間特別監房に入り、その後、ロシアを出国した。 地下鉄から出ると、わたしは河岸通りをネムツォフ橋まで歩いた。一人で抗議活動をやった場所だ。そこでドイツのカメラクルーが待っていた。インタビューを始めた。たちまち周りに警察官が集まった。 「あなたは尾行されていますね」ドイツの記者が言った。 「ええ、尾行させているんです。隠すことは何もありませんから。わたしに対して心理的抑圧をかけているんです」 警察官はわざとこちらに寄ってきて証明書を調べ始めた。記者たちのデータを書き写すと、彼らはこそこそと消えて行った。 『「ドアをぶった切るぞ」...ロシア当局の強引な家宅捜査で、反戦派ジャーナリストが奪い取られた「かけがえのない宝物」』へ続く
マリーナ・オフシャンニコワ
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