ホンダと日産が経営統合との噂……両社の強みを”モータースポーツの視点”から分析する
■飛行機も、空飛ぶ車も作っている、ホンダの強み
ホンダは自動車以外にも、様々な移動機器を開発している。有名なところでは飛行機”Honda Jet”であろう。 飛行機も、ガソリンではないものの、石油由来の燃料を使うため、カーボンニュートラルを推し進めるための解決策が求められる。その代替策のひとつが、前出の持続可能燃料である。 飛行機用の持続可能燃料はSAFと呼ばれるが、精製する工程、原料は、自動車用の持続可能燃料と同じ。つまりホンダは、持続可能燃料の知見を飛行機にも活かすことができるわけだ。 またF1で使われるバッテリー技術、モーター技術は、より高出力のモノが求められる空飛ぶ車=eVTOLにも活かされている。 F1ではパワーユニット(PU)の構成するコンポーネントのひとつにエナジーストアというものがあるが、これが電気自動車で言うバッテリーにあたる。このバッテリーは、各PUメーカーが独自に開発することができる。 eVTOLは様々な会社が開発しているが、ホンダはエンジンで発電し、バッテリーに貯めた電力でローターを回して飛行するタイプの開発を進めている。そして離陸時などにはかなりの電力が必要であり、そのためにはF1で使っているようなタイプのバッテリーが必要不可欠なのだ。 かつてF1用PU開発を担当し、今はeVTOL開発を率いるホンダの津吉智明LPLは、「F1のバッテリーに求められるのは、高出力だということです。これは、実はeVTOLで求められるバッテリーの性能によく似ているんですよ」と、motorsport.comの取材に答えている。 自動車/バイクのみならず、空、海、そして宇宙へと視野を広げているホンダ。その視野の広さは、間違いなく彼らの武器であろう。
■モータースポーツ開発のスピード感
ホンダの三部敏宏社長と日産の内田誠社長は8月の会見の際、EVの分野でテスラやBYDなどの新興メーカーに遅れをとっている理由について聞かれた際「スピード感」だと口を揃えた。 このスピード感こそ、モータースポーツを手掛けていることの最大のメリットではなかろうか? モータースポーツの車両を開発する際には、市販車のように何年もの開発期間をかけるわけにはいかない。例えばF1ならば、毎年毎年、新しいマシンを登場させる。シーズン中には新たなパーツを開発し投入する。こんなことが日常茶飯事に行なわれるわけだ。 前出の橋本博士は、F1と関わるようになった時、その開発スピードの速さに舌を巻いたと語った。 「F1に関わって一番感じたのか、開発のスピードですね。めちゃくちゃ速いですし、締め切りも決まっています。そこは学ぶべきことが多かったですし、一緒にやっていて実感しました」 そう取材の際に語っていたのが印象的だった。 そのホンダと日産が培ってきた”モータースポーツの開発スピード”をEVなどの市販車に活かすことができれば、ライバルメーカーとの厳しい競争に太刀打ちすることができるかもしれない。 ホンダの創業者である本田宗一郎の出身地は、「やらまいか精神」(何事もまずはやってみよう)で知られる浜松。そして今の日産の標語は「やっちゃえ」。企業風土はかなり違うと言われるが、実は目指すところは近いのかもしれない。
田中 健一