「患者さんが亡くなっているんです」キャリアを棒に振った製薬会社の公益通報者が署名活動を続ける訳
「仕事干し」の本当の理由とは…
また、仕事干しは内部通報・公益通報に対する報復だが、仕事を与えたくないわけではないと補足する。 「仕事を与えれば情報を与えることになり、それが怖いということ。情報を与えないためには仕事を与えないというわけなんですね。 会社、使用者は賃金を支払う義務はありますが、法律的には『仕事を与える義務』はないわけなんですよ。良いか悪いかは別の話として。その裏返しである就労請求権は労働者側にはないとされています。 ただ、もちろん何をさせてもいいわけではなく、今回のように内部通報への報復として仕事を与えないことは許されないですが、一般的な理屈で言うと、就労請求権あるいは仕事を与える義務はないでしょうという話になってくる。裁判所には、法律的にはそう簡単に越えられない壁がある。 そういう中で、小林さんのような方の志を私たちとしても制度改定によってお手伝いしたい、内部通報制度が本来の意味、本来の機能を果たすよう支えていきたいと思っています」 ◆「公益通報を後悔したことは一度もありません。患者さんが亡くなっている問題なんですから」 公益通報のために自らを犠牲にし、キャリアを棒に振ったことについて、後悔はないかと聞くと、小林さんは言った。 「公益通報を後悔したことは一度もありません。患者さんが亡くなっている問題なんですから。 私は、MRとしての採用面接時には『お薬そのものである製品とその薬についての情報が合わさってこそ、ちゃんとした医薬品として効果を発揮する。だから私はその情報提供をする仕事を通じて、患者さんのお役に立ちたい』と言ってきました。 アレクシオンのMCC採用面接のときにもそう言いました。適応外の患者さんが正しい情報を得られず亡くなっている状態を看過することは私にはできません」 ただ……とこんな苦しい思いも漏らした。 「厚生労働省の方との面談のときに、『公益通報者保護制度がありますから、不利益には自分で対処します』と言った自分の考えは甘かったなとは思います。こんなに公益通報者保護法が役に立たないとは思っていませんでしたから。 だからこそ、 私の後に公益通報する人が、私のようにキャリアを棒に振ることのないよう、公益通報者保護法改正のための署名活動を始めました。 公益通報は自分ではなく、他の人のためにするもの。それでキャリアを棒に振ってしまうことはあってはならないと思っています」 会社は、1月以降、1日あたり1時間未満の単純作業をさせる一方で、4月5日にwebで行われた小林さんの訴訟の第1回期日では争う姿勢だった。また、「公益通報者保護法の改正」のための署名には現在1600名超の署名が集まっている。 取材・文:田幸和歌子
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