「患者さんが亡くなっているんです」キャリアを棒に振った製薬会社の公益通報者が署名活動を続ける訳
転職の可能性も難しい状況に追い込まれ…
他の会社に行って、もう一度MRとして再出発しようとは? 「できない状態にされているんです。MRは認定資格が必要な職種で、その資格更新のためには、自己学習でできるMR学習ポータルでの基礎教育と、会社での実務教育の2つを履修する必要があります。 私は何度も会社に研修を受けさせてほしいとお願いしましたが、実務教育に参加させてもらえず、これまで通りの認定資格の更新ができない(MR基礎教育限定認定証になる)ので、他社への転職も難しい状況です」 小林さんが行った公益通報には大きな意義があるが、個人の犠牲は大きすぎる。 もし会社の不正を見つけ、それを見過ごせない人がいたら、どうすれば? 小林さんは自身の経験を踏まえてこう言う。 「社の不正や問題に気づいた人は、まず記録を取っていただきたいと思います。 次に、内部通報しても適切な対応が取られなかった場合にどうするかも考えておいていただきたいと思います。内部通報をもみ消す会社で通報者が無事でいられるでしょうか。もみ消された場合に備え、外部に通報できそうな事柄かを考えた上で行動を決めていた方が良いと思います。 また、非常にストレスがかかりますので、ストレスでの体調不良に備え、かかりつけ医を持っておくことをお勧めします」 また、現行の公益通報者保護法の問題点については、次のように指摘する。 「公益通報者保護法第11条では、必要な措置を取らなければならないとしており、ある程度の規模の会社では内部通報窓口を設けていますが、適切に対応するとは限りません。 公益通報者保護法では解雇や不利益処分を禁止しているものの、被害者が通報によって不利益を受けたと裁判で立証する必要があります。その立証は極めて困難で、いわゆる悪魔の証明に近いものだと感じています。 私の場合、厚生労働省に公益通報し、厚生労働省から会社あての行政指導や、添付文書の改訂指示があり、その直後に私が配転されたわけですが、それらを記録した日記も録音なども全て状況証拠だとして、配転が不当な動機によるものという推認を裁判所はしてくれませんでした」 代理人の安原幸彦弁護士は言う。 「内部通報制度は、本来なかなかあげられない声を上げさせて、いわば会社の自浄作用を促すというのが制度の本来の趣旨だと思います。 しかし、実際の機能は、社内の不満分子、危険分子をあぶり出す機能になっているのが実態だと感じます。 公益通報者保護法は、公益のために通報制度を作り、公益通報しても不利益を受けないというのが、公益通報を促すことになるのだと思いますが、実際にはたくさんの不利益を受けています。 今回のケースで敗訴となったのも、社員をどこに配置するかは会社の権限、会社の裁量になるため。内部通報にしろ、公益通報にしろ、本来の制度趣旨が生きていない。このままでは、これらの制度は死んでしまうと実感しています」