<スポーツライター藤原史郎の目>第93回選抜高校野球 広島新庄 戦力分析/下 堅守、強力打線も期待 /広島
「しぶとく、粘り強く戦い、勝ちにつなげる」。宇多村聡監督(34)の言葉は投手力とともに、高い守備力があってこそ言える。県大会決勝と、中国地区大会4試合中3試合が1点差の勝利だったが、その間の失策はわずか1。投手のけん制球が乱れたエラーで、野手の失策は無い。 特にセンターラインの固さが際立つ。主将の大可尭明(おおかたかあき)(2年)、瀬尾秀太(2年)の二遊間は1年生からコンビを組むレギュラー。年々守備範囲が広がり、肩の強さとスローイングの正確さが安心感を与え、ピンチでは併殺を完成させる要でもある。中堅手の藤川蓮(2年)は守備範囲が広く、右中間、左中間をしっかりカバーしている。 北田大翔(2年)は、1年生の秋に肩の強さを見込まれて内野手よりコンバートされ、昨年の秋季県大会で捕手として公式戦デビューした。県大会では4度の盗塁を3度刺し、中国地区大会は決勝で2盗塁を許したのみ。その試合も、盗塁刺2と捕手けん制刺1を記録し、下関国際(山口)の機動力野球を封じた。 左翼手や一塁手は、打力優先の選手起用をするか、調子のよい選手を先発させ、途中で守備力の良い選手に交代する場合もある。投手の継投とともに、試合展開を見定めた監督の的確な判断が勝利につながる。 攻撃は、昨年4月にコーチから就任した宇多村監督になって様変りした。それまでは12年半指導した迫田守昭・前監督の下、小技を駆使した野球で4度甲子園に出場した。「全国で勝つには打力が必要」と新指揮官は、打撃練習を増やした。 県大会は決勝こそ1得点だったものの、5試合で32得点。対戦相手は全て甲子園出場経験のある強豪との対戦だったが、1番・大可が長打5本を含む9安打で打率6割超を記録し、クリーンアップがチームの過半数の打点を挙げた。優勝候補の一つと目された準々決勝の広陵戦では、4番・花田に本塁打が飛び出すなど強打と連打で圧勝した。 中国地区大会では、初戦の鳥取西(鳥取)相手に打線が爆発。9番・北田が満塁本塁打を含む3打数3安打6打点と活躍。2戦目の準々決勝では、5番・藤川と6番・平田龍輝(2年)の適時打で3点を挙げ、3―2で勝利。どこからでも得点できる打線を印象付けた。準決勝の鳥取城北(鳥取)戦では、相手の10安打に対して7安打ながら4打点、決勝では6安打で3打点と、チャンスを確実にものにする強さも見せた。 県大会と中国地区大会での1点差の4試合中3試合はビッグイニングが無く、まだ強力打線の印象は薄い。しかし、これまで築いた機動力を絡めて手堅く得点を重ねるスタイルから、強打を備えた打線への変革は、その方向性が正しいことを秋季中国地区大会の初優勝で証明した。 甲子園での最高成績は16強。基礎体力強化を中心とした冬季練習を経てさらにアップした攻撃力で、それを上回る活躍を期待したい。(敬称略)