「パン作りから始めよう」 元市職員、復興への第一歩 ~宮城県・気仙沼~
退職、そして気仙沼へ移住
水野さんの夫は、両親や古くからの友人を亡くした上に生まれ故郷がその面影を全く失ったことで、陸前高田の地にとどまることができなくなってしまいました。そのため、夫婦で南隣の気仙沼に移住しました。 水野さんは言います。 「経験してみないと分からない“痛み”があるということを8年前に被災してみて初めて実感しました。しかも、痛みは人それぞれで、他人の痛みは絶対に分からないことも。それが家族であれ、別なのだということも」 そんな時、水野さんはひょんなきっかけからパン作りに出合いました。それも、「ポリパン」と呼ばれる新しく、ユニークなパン作りの方法でした。
ポリ袋とフライパンで作る“ポリパン”
「ポリパン」 はオーブンやミキサーなどを使わず、ポリ袋とフライパンを使って簡単にパンを作ろうというもの。小麦粉と水、それに塩と砂糖、酵母があればよく、それをポリ袋に入れて上下に振るだけ。その後発酵させて、フライパンで焼くというやり方です。 この手法を開発したのは、東京に住むパン作りの研究家、梶晶子さん。ガスや水道が止まってもカセットコンロさえあればパンを作れるということで、東日本大震災の被災地に出かけて行き、教室を開いてきました。
このポリパン は、もともとはパンを作ったことがない人、作る自信がなかった人でも容易に作れることが特徴です。ポリ袋に材料を入れてシャカシャカと振る楽しさと、小麦粉が発酵してパン生地に生まれ変わっていく様子を見ることで、その魅力にとりつかれていってしまうのだそうです。 水野さんは、2015年5月に梶さんが気仙沼の児童館で開催したポリパン作り教室に参加し、小麦粉がパンに変身していくのを目の当たりにしてパン作りにのめりこみました。水野さんは、自分で最初に作って食べたパンの味を今も覚えています。 「あ、美味しい、とひと口食べて小さな幸せを感じられるような、思わず笑みがでてくるような気持ちになりました。今の目標は『ひと口食べて、美味しいと幸せになるようなパン』を作ることです。この初めて食べた時の体験が原点となっています」