映画「湖の女たち」主演・福士蒼汰さんインタビュー 刑事の歪んだ支配欲、感覚で演じきった
『悪人』や『怒り』など数々の作品を手掛けてきた作家・吉田修一さんの『湖の女たち』(新潮文庫)が実写化され、5月17日から公開されます。湖畔の介護施設で100歳の老人が殺され、その謎を追う刑事と捜査で知り合った介護士の女が、湖に沈んだ恐るべき真実にのみ込まれていく様を描いたヒューマンミステリー。本作で、介護士・佳代への歪んだ支配欲を抱き、インモラルな関係性に溺れて行く刑事・濱中を演じた福士蒼汰さんにお話を聞きました。 【画像】福士蒼汰さんインタビューカットと、映画「湖の女たち」場面集
あらすじ
湖畔に建つ介護施設で100歳の老人が何者かに殺害された。事件の捜査を担当する西湖署の若手刑事・濱中圭介(福士蒼汰)とベテラン刑事・伊佐美佑(浅野忠信)は、施設関係者の中から容疑者を挙げて執拗に取り調べを行っていく。事件が混迷を極めるなか、圭介は捜査で出会った介護士・豊田佳代(松本まりか)に対して歪んだ支配欲を抱くように。一方、事件を追う週刊誌記者・池田由季(福地桃子)は、署が隠蔽してきた薬害事件が今回の殺人事件に関係していることを突き止めるが……。
2種類の物語が重なる 面白さ
――ミステリー要素に社会的、歴史的要素が加わった濃厚な内容でしたが、福士さんは今回の原作を読んでみて、いかがでしたか。 僕が原作を読んで出てきたイメージは、抽象画が目の前にどんとあって、それをどう表現するか、という感覚に近いなと思いました。最初は圭介と佳代の視点で読んだのですが、2人の関係は言葉では表すことができない抽象的なものだと感じました。一方で、薬害事件や旧日本軍731部隊の話は具体的でイメージが湧きやすかったです。過去の事件を取材する記者の池田が関わる具体的な物語と、圭介と佳代の抽象的な物語は、偶然なのか必然なのか、重なる部分があるということに、この作品の深さを感じました。 正直僕は、圭介と佳代の関係性は理解しきれなかったのですが、過去の事件と照らし合わせることで、少しずつ掴めてきたように思います。
腑に落ちる感覚、間違いなかった
――演じた濱中圭介は、家庭事情や捜査のストレスから佳代とインモラルな関係に溺れていくという、共感も理解もしにくい役どころだったかと思います。役作りにあたってはどう気持ちを作っていったのですか? 原作と台本を何度も読んでいるうちに、圭介の心情や行動が想像できるようになったので、役作りにも落とすことができました。でも、撮影の初日に大森(立嗣)監督から「そういう役作りは必要ない」と言われたんです。「準備してくるのはいいけど、圭介としての瞬間はそういうのを全部忘れて、セリフも自分が思ったタイミングで言ってほしい」とおっしゃって。 今までは事前に準備して、その準備通りに演じてきたのですが、今作ではある種それをすべて捨てるようなお芝居になったと思います。大森監督の演出を信じて、「何も考えない」ということを意識しながらお芝居をしてみたら、徐々に監督が言わんとしていることが分かってきて、つかめた実感がありました。大森監督は、役者が感覚的に演じているのか、脳みそで考えて演じているのかを常に見ているようでした。 ――圭介を演じることについて、「今まで経験したことのない役柄だった」と話していましたが、撮影を終えた今の感想は? 撮影に入る前は不安な気持ちもありましたが、いざ撮影が始まると違和感はありませんでした。圭介を知れば知るほど人間的な部分が見えてきたので、自然に受け入れることができました。僕は今まで、漫画やアニメが原作の作品に出演させていただくことが多かったのですが、そういう作品のほうが難しいかもしれません。演じるキャラクターが人間ではないこともあるので、どういう感情からその行動に至ったのかがつかみきれない時があって。でも今作は、一見筋が通っていないように見える圭介の行動の裏にも、ちゃんと理由となる心情があったので、納得して演じることができました。初めて原作を読んだときに感じた、わからないなりに腑に落ちていく感覚は、間違っていなかったのだと思います。 だからこそ、役作りをする必要があまりなかったのかもしれません。役作りをしようと意識すると、圭介のサディスティックなイメージを前に出そうとしてしまう。だけど圭介自身はそうしようと意図的に生きているわけではないから、嘘が多い作り込んだお芝居になってしまう。きっと大森監督はそういう事も分かっているから「何も考えないでいいよ」と言ってくださったんだと思います。