戦火に揺れるキーウ、14歳少女のふさいだ心を救った日本のロリータ・ファッション
また、ミラナはロリータ・ファッションを介していろんな友達もできたと喜んでいた。街を歩けばあなたとってもかわいいわね、と言われるのも楽しいのだそうだ。 ミラナが筆者を誘ってきたのは、テレグラムというラインのようなアプリにあるキーウのロリータ愛好家のグループで企画されたイベントだ。月に1、2回定期的に行われているらしい。夏は公園に集まってロリータ・ティーパーティーなどをして楽しんだとのことだ。 父親は娘の趣味を応援しているものの、ネットのオフ会に1人で参加することを少し心配しているようだった。私が一緒であれば安心だという気持ちが伝わってきた。 ■ 街角で声をかけてくる男性を冷たくシャットアウト 10月後半のキーウは少し冷え込む。今回はヴィクトリア・ミュージアムという近代の装身具などを展示している美術館を巡る、という内容だった。ロリータ・ファッションはヴィクトリア朝の服飾から着想を得ているというので彼女たちにピッタリであろう。 ただのロリータ・ファッションが好きなインスタグラマーではなく、ロリータ・ファッションをより深く楽しみ、学ぼうという姿勢を持っていることに驚いた。 当日最終的に集まったのは11人だった。人が集まるのを待っている間、通りすがりの人に何度も「かわいいね、一緒に写真とってもいい?」と声を掛けられる。感心したのは、女性に声をかけられた場合には写真にも応じるが、男性には冷たい態度ではっきりと拒否の姿勢を取ったことだった。 「男の人とは写真を撮ったりしちゃだめってご両親に言われているの?」と尋ねたが、特にそういうわけではないという。自分たちが嫌だから撮らないだけだそうだ。
■ 同じ趣味を持つ者同士の「やさしい空間」 イベントに集まった人たちの年齢は10代前半から、30代と幅広い。1人、また1人と集まると挨拶をして、まずみんなでお互いの今日のファッションを褒めあう。これはおそらくルールなのだろう。「髪型素敵ね」「ネックレスかわいい」「そのヘッドドレスとっても似合ってる!」という具合だ。 ロリータ・ファッションをしていない筆者はファッションを褒める挨拶には参加できないが、皆快く受け入れてくれた。 ミラナは小さな帽子を斜めにかぶりたいようだが、ずり落ちてきてしまう。すると他の子が直すのを手伝ってくれる。「ピンで留めたらいいんじゃない? 私ピン持ってるよ」と他の子が貸そうとするが、ミラナは「帽子のひもにピンの跡をつけたくないの」と言う。相手の女の子は「分かる~、また直せばいいね」と答えていた。 驚くほどやさしい「女の子」の空間だった。もしかしたら「淑女」の空間と言ったほうが正しいのかもしれない。 参加者に「どのようにしてロリータ・ファッションが好きになったの?」と聞くと10代の子は「漫画やアニメなどをきっかけにしてはまった」という子が多かった。 20代の子は『下妻物語』のような映画を見たという。日本のビジュアル系バンドも大好きだそうだ。その子の彼氏も男性用のロリータ・ファッションを着ることがあると言う。彼女はNintendo DSを持ち歩いていた。インターネットで中古を探して買ったのだと言う。